グラース家 はアメリカの20世紀を代表する作家、J・D・サリンジャーの連作物語に登場する一家である。この連作物語を読むにつれて、パズルのように、グラース一家の家族関係が徐々に明らかになる設定になっている。サリンジャーはこの連作の完成に言及していたが、”Hapworth 16, 1924” (1965)刊行後音沙汰が無い。7人の兄弟姉妹は「これは神童」(It's a Wise Child)というラジオのクイズ番組に次々と出演しており、この番組の出演料で大学への学費を稼いでいた。長男のシーモアから末のフラニーには18歳の隔たりがある為、永らくグラース兄弟がそのラジオ番組を独占していた。ウィットとエスプリに満ちた家族間の会話・手紙のやり取り等が特徴。この一家は、作者サリンジャーが生まれ育った家庭と同様に、父方がユダヤ系で母方がアイルランド系という設定になっている。
- 母親はベシー。『ゾーイー』にて登場。
- 父親はレス。
- グラース一家の支柱を成すのは長男のシーモア。どの家族も彼の影響を多分に受けている。『バナナフィッシュにうってつけの日』(ナイン・ストーリーズの1編)に登場する(なお、そこで彼は拳銃自殺してしまう)。他作品では登場人物が彼を語るか、彼の書いた手紙・日記などから間接的に描かれる事が多い。『テディ』という作品の主人公、テディはシーモアの前身と思われる。
- 次男はバディ。多くの作品を彼が書いた事になって居る。『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』に主人公として登場。
- 次に続くのが長女のブーブーで、タネンバウム家に嫁ぎ、一児ライオネルの母となる。反ユダヤ主義をモチーフにした『小舟のほとりで』?に登場。
- ウォルトとウェーカーは双子の兄弟。ウェーカーの方が12分後に生まれた。ウォルトは第二次世界大戦後の日本占領時において不慮の事故(ストーブの爆発)で死亡。『コネティカットのひょこひょこおじさん』(ナイン・ストーリーズの1編)で間接的にウォルトに言及している場面がある。
- 五男のゾーイーは『フラニーとゾーイー』に登場。美貌の青年で俳優業に就く。本名はザカリ・グラース。
- 次女はフラニー。『フラニーとゾーイー』に登場。本名はフランシス・グラース。
コールフィールド家 小説の中に初めてホールデンの名前が登場するのは、有名な『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)ではなく、1941年に執筆された『マディソン街はずれの小さな反抗』である。しかし第二次世界大戦直前に出版をキャンセルされ、正式な発表は戦後の1946年となった。すなわち出版順にみれば、1944年に発表された『最後の休暇の最後の日』が最初となる。
ホールデンの設定は作品ごとに少々異なっている。大戦前の『マディソン街はずれの小さな反抗』(1941年執筆、1946年出版)では、高校生の少年で、主人公である。大戦中の『最後の休暇の最後の日』(1944年)『マヨネーズ抜きのサンドイッチ』(1945年)では、軍隊に入隊した二十歳である。しかし本人は直接は登場せず主人公は別におり、兄ヴィンセント・コールフィールドの口から戦地で行方不明になっていると語られる。戦後の『気ちがいのぼく』(1945年)『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)は十六歳の高校生で、主人公である。
独特の言い回しと少年らしい潔癖さやデリケートな感性、また弱者に対する優しさなど、発表から半世紀経った現在も色褪せることなく読み継がれる主人公のひとりである。
コールフィールド家の家族構成
『ライ麦畑でつかまえて』
- 父(弁護士)
母
兄 D.B.(小説家)
ホールデン(高校を退学)
弟 アリー(病死)
妹 フィービー
『最後の休暇の最後の日』
- 父
母(女優)
兄 ヴィンセント(兵隊、小説家)
ホールデン(戦地で行方不明)
弟 ケネス(病死)
妹 フィービー