2019年12月2日月曜日

トッド理論についての鹿島茂の解釈

エマニュエル・トッドの初期論考に対する鹿島による解釈

人類はアルカイック核家族から文明が進むにつれ直系家族原理を打ち立てるが、ある地域ではその権威主義的性質に対する反動形成で絶対核家族や平等核家族を形成し、さらに文明が進むと現代核家族になる 直系原理のまま現代核家族になる地域もあるが
権威主義がさらに高まり外婚制共同体家族となって現代核家族にいたる地域もある 
言語地理学の知識を援用すると古層は辺縁に保存される
つまりユーラシア大陸の端に直系家族(日本とドイツ)原理の国がある なお、私見では、沖縄は平等核家族? 絶対核家族はアメリカ文化の影響が大きかった関東?

1 絶対核家族 自由主義、資本主義(市場経済)、二大政党、小さな政府、株式資本主義
 親子関係は弱く別居、兄弟の相続は不平等
 イングランド、オランダ、デンマーク、アメリカ、オーストラリア、ニュージーラ 

2平等核家族 共和主義、無政府主義、小党主義、大きな政府
 親子関係は弱く別居、兄弟の相続は平等
 フランスのパリ盆地、スペイン中部、ポルトガル南西部、
 ポーランド、ルーマニア、イタリア南部、中南米

3 直系家族 自民族中心主義、社会民主主義、ファシズム、
      政権交代の少ない二大政党、土地本位、会社資本主義
 親子関係は強く同居、兄弟の相続は不平等
 ドイツ、オーストリア、スイス、チェコ、スウェーデン、ノルウェー、ベルギー、
 フランス周辺部、スペインのカタロニア・バスク、ポルトガル北部、
 スコットランド、アイルランド、韓国、北朝鮮、日本

4 外婚制共同体家族 スターリン型共産主義、一党独裁資本主義
 親子関係は強く同居、兄弟の相続は平等
 ロシア、中国、フィンランド、フランスの中央山間部、イタリア中部、
 ハンガリー、セルビア、ボスニア、ブルガリア、マケドニア、ベトナム北部
      
1と3は女性の識字率が高いのが特徴(兄弟相続の不平等性によるという)
識字率と出生率:男性のそれが50%を超えると社会変革の機運が生まれ、女性のそれが50%を超えると出生率が下がる
注:ベンヤミン:資本主義が発展し、集団は眠りに入り夢をみるが、それは集団の無意識として様々な形象をとって現れるパサージュつまり商店街、万博、鉄道駅、モードなど
注:鹿島:人口動態にこそ集団の無意識が強く表れる

ユーラシア大陸では中心に共同体家族、その周辺に直系家族と反動形成として2種の核家族が社会構造となる トッドは当初は偶然と考える共時的な構造主義の立場をとったが歴史的経緯を重視する言語地理学の知見をもとに『周辺ならびに辺縁に古い家族構造が存在する』という通時伝播モデルをとった その基底には起源的核家族がある
農耕という土地所有から直系家族がうまれるが遊牧民との交流で外婚制共同体家族が生まれる場合もあれば反動形成で平等主義核家族や絶対核家族が生まれる場合もある 時代がたち近代化が進んでも、社会人として所属する各種の中間団体には各々の社会の家族構造が無意識のうちに前提される(例:日本における会社など)男性の識字率と女子のそれの乖離から人口の増大が生まれ、15歳から30歳までの男性が社会の30%以上を占める
ユースバルジがおこると革命機運がでてくる 直系家族では長男に一子相続され、長男の嫁が権力をもち、その識字率は高くなる 現代では西欧化の進んだ社会では女子識字率は50%を越しており全体的に出生率は低くなっている しかし、サハラ以南のアノミー社会やイスラム社会の場合は、まだその段階でなく人口爆発がおこっている

春秋時代に華北で直系家族制が始まった 論語は、その倫理構造である 平等主義的起源核家族制のフン族との戦いの経験から直系の父原理を組み合わせて始皇帝が共同体家族国家を創始した 帝国をつくったあとは直系原理の弾圧にかかった(焚書坑儒)
ノルマン人は直系家族制 あぶれた次男以下がヴァイキングとなった 十字軍も同様の機序だが修道院に入る手もあった
英仏百年戦争も次男以下の傭兵が主体 フランス、イギリスでの民衆レベルでの王権に対する反動が今日の国民性(2種の核家族制)をつくった 
とくにフランスでは新領土となった地帯が直系家族制であり、子孫への買官運動が盛んとなり、これが官僚制や絶対主義国家の基礎となった

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日本の東北部:基底部に原初的な核家族形態を残しながら、上から直系原則が導入された
日本のアイヌは、原初的双居型核家族で兄弟姉妹の連携がつよくもっともアルカイック
沖縄は、原初核家族に中国の父系制が影響し、反動形成として母系、母方居住になった

直系化のルーツは11~12世紀の畿内で農業が発展し分家が難しくなったことによる
(ただし直系化の徹底は明治時代以降である)
中国文明の威信で父系制が導入されたが双居的原初家族において相補的母方居住をうみだした(妻問婚)
僧兵は、畿内で直系化がすすみアブレタ次男以下がなったもの なお直系化の普及は鎌倉末期で、幕府のある関東では長男相続の純粋理念型直系化がすすんだ(政治的なもの)東北には周辺に兄弟が住むという、やや先祖がえりの要素を含む理念型直系化がすすんだ 中部・西日本ではアルカイックなものを残しながら実際的な直系化となった なお直系化は人口減少につながりやすく江戸時代末期には関東・東北での人口減少をもたらしパクス・トクガワナに貢献した 西南地方では兄弟の近接居住がおおくアルカイックで出生率もたかかった こういう地方では家以外の横の連帯もつよくなり海援隊などもおこった 一方関東の新撰組は直系原理による縦社会だった なお明治政府も直系原理を採用し権威は天皇、権力は大久保とした 1900頃に本格的にユースバルジおこした 皇道派将校は西南出身が多かった 世界的には平等主義核家族のフランスでは移民はうまくいくはず
イスラームとアフリカ南部を比べると母系のつよい後者で識字率があがっている 日本の移民ではアルカイック核家族の東南アジア系が軋轢すくないだろう

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