(『村』(1983・冨山房)『町』(1969・冨山房)『館』(1967・冨山房))
『村』はフォークナーの長編小説。1940年に発表、後の『町』(1957)、『館(やかた)』(1959)と
ともに、いわゆるスノープス三部作をなす。『村』では20世紀初期、ミシシッピ州
ヨクナパトーファ郡ジェファソン町の外れのフレンチマンズ・ベンドという貧しい村に、
アブ・スノープスという、プア・ホワイト(貧乏白人)の一族が現れ、長男のフレムが村の
有力者バーナーの店の店員になり、やがて野性的な若者の私生児をはらんだ
店主の娘ユーラと結婚して、しだいに権力を得てゆく経過が語られる。
同じスノープス一族で牝牛(めうし)を愛する白痴アイクや、貧ゆえの憎しみから隣人を殺すミンク、
さらには荒馬の競売や埋め金探しなどの挿話が、一種のブラック・ユーモアを交えて語られ、
最後にはフレムがさらに成功を求めてジェファソンの町へ向かう後ろ姿が描かれる。
『町』では、フレムが町の銀行の副頭取になり、かつ妻ユーラの情人である頭取のド・スペインを
追い落として、ついに頭取にのし上がって、その館に移り住む。
『館』では、最高の地位を極めたフレムを、『村』に登場したミンクが、自分を助けにきてくれなかった
恨みのゆえに、40年近くの刑務所生活ののちに、ついに射殺して復讐(ふくしゅう)を遂げる。
あとの二作品には、ユーラおよび彼女の娘リンダと、スノープスの跳梁から人々を守ろうとする
地方検事ギャビン・スティーブンズとのプラトニックな愛が描かれて、
ミンクの復讐とともに、フレムの代表する出世主義の批判をなし、また全編に、
冷徹な眼をもったミシン販売人ラトリフが登場して、陰に陽にその批判を裏づける役目を果たしている。フォークナー後期の集大成的な作品群である。[大橋健三郎]
(納屋は燃える)
舞台は、19世紀末の米国南部。 幼い少年サーティ・スノープスの父であるアブナーは、
地主の納屋に火を放って焼き払ったとして、町から去ることを強いられる。
話の冒頭の裁判の場面で、サーティは尋問に呼ばれるが、アブナーが犯人だとする
明白な証拠が出てこないまま、スノープス一家は郡外へ退去することを命じられる。
一家は、ド・スペイン少佐の分益小作人としてアブナーが働くことになる新しい場所へと
移動するが、アブナーは、自分の目に自分の名誉を守るために必要だと映ることには、
権威に反抗せずにはいられない。新たしい場所にたどり着いた直後、アブナーはド・スペイン
少佐の屋敷を訪れるが、金色の絨毯に馬糞まみれの足跡を付ける。ド・スペイン少佐は
絨毯を洗うようアブナーに命じるが、アブナーは、きついアルカリ性の石けんを使って、
絨毯を修復できないほど傷めた上で、ド・スペイン少佐の家の正面ポーチに放り出す。
ド・スペイン少佐は絨毯の価値に見合う罰として、アブナーに20ブッシェルのトウモロコシの
供出を課す。裁判では、治安判事が罰金の額を減じて10ブッシェルにした。再び機嫌を悪くした
アブナーは、今度はド・スペイン少佐の納屋に火を放つ準備をする。サーティはド・スペイン
少佐に、父親が納屋を燃やそうとしていることを告げた上で、父親の元へ逃げ帰る。
少年は馬で追いかけてきたド・スペイン少佐にすぐに追いつかれるが、溝に飛び込んで
身を潜め、やり過ごす。サーティは2発の銃声を聞き、父親が撃たれたものと思い込むが、
誰が撃たれたかは作中では語られない。
なお、この父親と、サーティーの兄は、「納屋を焼く」以降の作品にも登場する。
父親から深い影響を受けた少年は、家族の許には帰らず、自分の人生をひとりで生きて行く。
文中には、事の20年後になって、長じたサーティが当時を振り返る言葉が盛り込まれているが、
それまでにサーティがどのように生きたかは語られない。
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBd0290508.pdf
2016年4月26日火曜日
2016年4月25日月曜日
サートリス・バーベナの匂い
第1次大戦から帰ってきた、自暴自棄気味の青年が主人公の話。後のフォークナー小説に登場
する人物も何人か現れる。銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫の
ベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリス大佐である。
ベイヤードが帰ってきて、老ベイヤード(『バーベナの匂い』の主人公)と叔母の
ジェニイが迎えた。ベイヤードの双子の弟ジョニーはドイツの戦闘機に撃墜されて死んだ。
サートリス家に仕える黒人一家はサイモン、その子キャスビイ、その孫アイサムだ。
キャスビイは大戦に行ったうぬぼれから白人にたいして横柄になるが、すぐ老ベイヤードに
はりたおされる。ベイヤードは自動車を買って叔母ジェニイとアイサムを乗せた。
二人は車のとりこになった。老ベイヤードは、車を嫌い、車に乗る人間には金を貸さなかった
から、この事態に怒る。サートリス家は寿命で死ぬことがなかった。曰く、彼らは戦争を口実に
して自殺するのだ。――サートリス家の人びとが、彼の若いころの紳士であるならあざけり
とばしたであろうもの、今ではどんな貧乏人でも所有し、どんな馬鹿者でも乗りまわすことの
きる機械に乗って、出たり入ったりしているのを見つめていた。ベイヤードはスピード狂である。
町に出て、種馬に乗ろうという無謀なふるまいをして、落馬する。怪我をした直後に酒を飲んで
車で暴走する。
第一次大戦と、弟ジョンの死は彼に生きることを面倒にさせた。「兵士の故郷」と似た雰囲気が
ある。ヨーロッパからかえってきた明るい好青年ホレス・ベンボウと、彼を溺愛する妹ナーシサ、
それに隣近所の養母に近いサリィ叔母。貧農の大家族スノープス家。
「しかし彼女は一九〇一年以後のことに対しては、それがどのようなことであれ、
おだやかなうちにもきっぱりと自分の心を閉ざしていた。そして完全に過去のなかに生きていた。
彼女にとっては、時は馬にひかれて去っていったのであり、そのあとに残されたかたくななまでに
静かな空白のなかには、自動車の、きしるような制動器の音などは、まったく入ってこなかった」。
ベイヤードは一人で事故をおこして、療養するはめになる。だが、まだ死ななかった。
人間への憎悪を糧に生きるらばの話。ナーシサは結婚した兄に絶望して、ベイヤードとともに
行動するようになる。車をとばしていたベイヤードは山を滑落してしまう。彼は平気だったが、
同乗していた老ベイヤードは死んだ。
彼はポニーで遁走する。――オマエハ自分デ考エテミテモウマクイクハズハナイ、イヤ、
不可能ダトワカッテイタヨウナコトヲワザトヤッテ、ソレデイテ、自分ノヤッテシマッタコトノ
結果ニ顔ヲツキ合ワセルノヲ恐レテイルンダ……
ベイヤードのみならずサートリス家には死相が出ている。
老ベイヤードの友人ヘンリイらは、皆ヤンキーのことをいまだに根に持っている。
彼らは負けた国なのだ。「レフのはなしでは、おとっつぁんとストンウォール・ジャックソンは、
けっして降服しなかったんだそうです」。連邦政府の、ヤンキーの軍に加わってヨーロッパ戦線に
行くなどけしからんと老マッカラムは言った。ベイヤードはマッカラムの家に逃げ出していたが、
祖父を死なせたことはじきにばれるだろう。彼はクリスマスに汽車で帰る。クリスマスにはみな
祝い、爆竹をならす。
メキシコからカリフォルニアへと放浪したベイヤードは、デイトン飛行場での試験飛行の
パイロットを引き受け、その飛行機、「紙の上でだけよくとぶ殺人機」は空中分解した。
「あれは行く用もないところに行って、自分にかかわりのないことをやったのですよ」。
ナーシサとベイヤードの赤子だけが残される。
付帯資料
新潮の短編集でもっともかぐわしい作品は「バーベナの匂い」(1870年代の設定)。
ジェファソンの有力者サートリス大佐(曽祖父)の死を、息子ベイアード(20代、『サートリス』
のオールド・ベイアード)の視点で描いた好編だ。父の妻で、ベイアードにとっては継母にあたる
ドルーシラの髪を飾っていたのが、バーベナの花である。
彼女は、南北戦争が終わってもなお戦場に生きているような女性で「バーベナこそは、
千軍万馬のうちにあってもその匂(にお)いを失わない唯一の植物」と信じていた。
ドルーシアが8歳年下のベイアード(多分オールド・ベイアード)に求愛のキスを迫る場面が
ある。「彼女が私にたいして異常な視線を投げかけ、彼女の髪にさしたバーベナの匂いが
百倍もまし、百倍もつよくなって、あたりのうす暗がりのなかに瀰漫し、なにか、いままで
夢みたこともないようなことが起りかけているのに気づいた」。濃厚な匂いだ。
長いキスのあと、「彼女はバーベナの小枝を髪からぬいて、それを私の折り襟にさしこんで
くれた」。
父は、政敵に撃たれて死んだ。その死体の手は、不細工にだらりとなって「人を殺すような
大それた行為を、いままでいくたびとなく重ねてきたとはとうてい思われないほどだった」。
ベイナードは、復讐せよとの期待を一身に背負って政敵のもとへ向かう。襟もとには、
このときもバーベナ。匂いが「もうもうたる葉巻タバコの煙のように立ちこめる」。
それを嗅覚で感じながら、彼はどんな選択をするのか――。
「エミリーにバラを」(1931年)も、ジェファソンの話だ。主人公は、74歳で死んだ
ミス・エミリー・グリアソン。有力者の娘だったようで、父の死後、当時の市長――なんと、
これがサートリス大佐――から税免除の特別待遇を受けた。市長が代わっても
「ジェファソンの町では、わたくしに税金を課さないことになっております」と言って憚らない。
その邸宅の描写は、古のチャールストンを思いださせる。
「かつては白く塗られていた、大きな、四角ばった、木骨造りの屋敷であって1870年代
特有の、ひどく優雅な様式にのっとって、いくつかの小さな円屋根や、尖塔や、渦巻模様を
施したバルコニーなどで飾られていた」
エミリーは生涯独身だったが、30代のころに浮いた話があった。相手は、歩道舗装工事の
現場監督として町へやって来た北部男。彼女と四輪馬車でドライブする姿が見かけられたもの
だが、あるときからぷっつり姿を消した。そして、家から異臭が漂うようになる。
今で言うごみ屋敷か。近所から市に苦情が寄せられるが、市長は「きっとあの婦人が使って
いる黒人が庭で殺したヘビかネズミのせいでしょうよ」と、まともに受けあわない……
この作品で、それなりの役回りを演じる黒人と言えば、長くエミリーに仕えてきた「召使」の
老人くらいだ。ただ、彼の固有名詞は文中にない。それでいて主の秘密を知り抜いている
らしいという皮肉。彼女が亡くなり、弔問客を迎え入れたあと、「まっすぐ家のなかを通り
ぬけると、裏口から出ていったきり、二度とふたたび姿を見せなかった」。
ここにも、南部社会の歪みがある。
http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/2297/5223/1/KJ00000706358.pdf
する人物も何人か現れる。銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫の
ベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリス大佐である。
ベイヤードが帰ってきて、老ベイヤード(『バーベナの匂い』の主人公)と叔母の
ジェニイが迎えた。ベイヤードの双子の弟ジョニーはドイツの戦闘機に撃墜されて死んだ。
サートリス家に仕える黒人一家はサイモン、その子キャスビイ、その孫アイサムだ。
キャスビイは大戦に行ったうぬぼれから白人にたいして横柄になるが、すぐ老ベイヤードに
はりたおされる。ベイヤードは自動車を買って叔母ジェニイとアイサムを乗せた。
二人は車のとりこになった。老ベイヤードは、車を嫌い、車に乗る人間には金を貸さなかった
から、この事態に怒る。サートリス家は寿命で死ぬことがなかった。曰く、彼らは戦争を口実に
して自殺するのだ。――サートリス家の人びとが、彼の若いころの紳士であるならあざけり
とばしたであろうもの、今ではどんな貧乏人でも所有し、どんな馬鹿者でも乗りまわすことの
きる機械に乗って、出たり入ったりしているのを見つめていた。ベイヤードはスピード狂である。
町に出て、種馬に乗ろうという無謀なふるまいをして、落馬する。怪我をした直後に酒を飲んで
車で暴走する。
第一次大戦と、弟ジョンの死は彼に生きることを面倒にさせた。「兵士の故郷」と似た雰囲気が
ある。ヨーロッパからかえってきた明るい好青年ホレス・ベンボウと、彼を溺愛する妹ナーシサ、
それに隣近所の養母に近いサリィ叔母。貧農の大家族スノープス家。
「しかし彼女は一九〇一年以後のことに対しては、それがどのようなことであれ、
おだやかなうちにもきっぱりと自分の心を閉ざしていた。そして完全に過去のなかに生きていた。
彼女にとっては、時は馬にひかれて去っていったのであり、そのあとに残されたかたくななまでに
静かな空白のなかには、自動車の、きしるような制動器の音などは、まったく入ってこなかった」。
ベイヤードは一人で事故をおこして、療養するはめになる。だが、まだ死ななかった。
人間への憎悪を糧に生きるらばの話。ナーシサは結婚した兄に絶望して、ベイヤードとともに
行動するようになる。車をとばしていたベイヤードは山を滑落してしまう。彼は平気だったが、
同乗していた老ベイヤードは死んだ。
彼はポニーで遁走する。――オマエハ自分デ考エテミテモウマクイクハズハナイ、イヤ、
不可能ダトワカッテイタヨウナコトヲワザトヤッテ、ソレデイテ、自分ノヤッテシマッタコトノ
結果ニ顔ヲツキ合ワセルノヲ恐レテイルンダ……
ベイヤードのみならずサートリス家には死相が出ている。
老ベイヤードの友人ヘンリイらは、皆ヤンキーのことをいまだに根に持っている。
彼らは負けた国なのだ。「レフのはなしでは、おとっつぁんとストンウォール・ジャックソンは、
けっして降服しなかったんだそうです」。連邦政府の、ヤンキーの軍に加わってヨーロッパ戦線に
行くなどけしからんと老マッカラムは言った。ベイヤードはマッカラムの家に逃げ出していたが、
祖父を死なせたことはじきにばれるだろう。彼はクリスマスに汽車で帰る。クリスマスにはみな
祝い、爆竹をならす。
メキシコからカリフォルニアへと放浪したベイヤードは、デイトン飛行場での試験飛行の
パイロットを引き受け、その飛行機、「紙の上でだけよくとぶ殺人機」は空中分解した。
「あれは行く用もないところに行って、自分にかかわりのないことをやったのですよ」。
ナーシサとベイヤードの赤子だけが残される。
付帯資料
新潮の短編集でもっともかぐわしい作品は「バーベナの匂い」(1870年代の設定)。
ジェファソンの有力者サートリス大佐(曽祖父)の死を、息子ベイアード(20代、『サートリス』
のオールド・ベイアード)の視点で描いた好編だ。父の妻で、ベイアードにとっては継母にあたる
ドルーシラの髪を飾っていたのが、バーベナの花である。
彼女は、南北戦争が終わってもなお戦場に生きているような女性で「バーベナこそは、
千軍万馬のうちにあってもその匂(にお)いを失わない唯一の植物」と信じていた。
ドルーシアが8歳年下のベイアード(多分オールド・ベイアード)に求愛のキスを迫る場面が
ある。「彼女が私にたいして異常な視線を投げかけ、彼女の髪にさしたバーベナの匂いが
百倍もまし、百倍もつよくなって、あたりのうす暗がりのなかに瀰漫し、なにか、いままで
夢みたこともないようなことが起りかけているのに気づいた」。濃厚な匂いだ。
長いキスのあと、「彼女はバーベナの小枝を髪からぬいて、それを私の折り襟にさしこんで
くれた」。
父は、政敵に撃たれて死んだ。その死体の手は、不細工にだらりとなって「人を殺すような
大それた行為を、いままでいくたびとなく重ねてきたとはとうてい思われないほどだった」。
ベイナードは、復讐せよとの期待を一身に背負って政敵のもとへ向かう。襟もとには、
このときもバーベナ。匂いが「もうもうたる葉巻タバコの煙のように立ちこめる」。
それを嗅覚で感じながら、彼はどんな選択をするのか――。
「エミリーにバラを」(1931年)も、ジェファソンの話だ。主人公は、74歳で死んだ
ミス・エミリー・グリアソン。有力者の娘だったようで、父の死後、当時の市長――なんと、
これがサートリス大佐――から税免除の特別待遇を受けた。市長が代わっても
「ジェファソンの町では、わたくしに税金を課さないことになっております」と言って憚らない。
その邸宅の描写は、古のチャールストンを思いださせる。
「かつては白く塗られていた、大きな、四角ばった、木骨造りの屋敷であって1870年代
特有の、ひどく優雅な様式にのっとって、いくつかの小さな円屋根や、尖塔や、渦巻模様を
施したバルコニーなどで飾られていた」
エミリーは生涯独身だったが、30代のころに浮いた話があった。相手は、歩道舗装工事の
現場監督として町へやって来た北部男。彼女と四輪馬車でドライブする姿が見かけられたもの
だが、あるときからぷっつり姿を消した。そして、家から異臭が漂うようになる。
今で言うごみ屋敷か。近所から市に苦情が寄せられるが、市長は「きっとあの婦人が使って
いる黒人が庭で殺したヘビかネズミのせいでしょうよ」と、まともに受けあわない……
この作品で、それなりの役回りを演じる黒人と言えば、長くエミリーに仕えてきた「召使」の
老人くらいだ。ただ、彼の固有名詞は文中にない。それでいて主の秘密を知り抜いている
らしいという皮肉。彼女が亡くなり、弔問客を迎え入れたあと、「まっすぐ家のなかを通り
ぬけると、裏口から出ていったきり、二度とふたたび姿を見せなかった」。
ここにも、南部社会の歪みがある。
http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/2297/5223/1/KJ00000706358.pdf
2016年4月21日木曜日
児童文学1965年全集より抜粋
個人的には中国とロシアに不案内だなあと反省 中学から私立に行ったせいかなあ
チップス先生さようなら 1934年 vs 飛ぶ教室 1933年 ほぼ同年代と興味深い
『古典編』
●ギリシア神話@ ●ホメーロス物語(イーリアス/オデュッセイア)@
●聖書物語@ ●イソップ寓話@ ●アラビアン=ナイト@
●ニーベルンゲンの歌 ●ローランの歌 ●ワイナモイネン物語 『カレワラ』より
●中世騎士物語:ブルフィンチ (ドン・キホーテはパロディ)
『北欧』
●童話・絵のない絵本・即興詩人 アンデルセン原作@ ●ペール=ギュント イプセン原作
『南欧』
●ピノッキオ コロッディ原作@ ●クオレ アミーチス原作@
『アジア』
●ジャータカ物語(前生譚)@ ●聊斎志異 蒲松齢・原作@
●大勇士ルスタム物語 ―『シャーナーメ』より― フェルドゥーセィー原作
●シャクンタラー カーリダーサ原作
『イギリス編』
●ガリバー旅行記 ジョナサン・スウィフト原作 @ ●マザーグース@
●トム=ジョーンズ物語 フィールディング原作@ ●ロビンソン=クルーソー デフォー原作@
●クリスマス・カロル ●オリバー=ツイスト ディケンズ原作@
●宝島 ●ジキル博士とハイド氏 スチーブンソン原作@ ●幸福な王子 ワイルド原作@
●ロビン=フッドの冒険 イギリス民話@ ●フランダースの犬 ウィーダ 原作@
●ふしぎの国のアリス キャロル原作@ ●ピーター・パン バリ 原作@
●透明人間 ウェルズ 原作@ ●ホームズの冒険 ●失われた世界 ドイル 作@
●トム=ブラウンの学校生活 ヒューズ原作 ●ばらと指輪 ウィリアム・サッカレー原作
●名犬クルーソー ロバート・バランタイン原作 ●イノック=アーデン テニスン 原作
●ウェスト=ポーリー探検記 トーマス・ハーディ原作 ●黄金の川の王さま ラスキン 作
●水の子トム チャールズ・キングズリー原作 ●サイラス=マーナー ジョージ・エリオット原作
●ポンペイ最後の日 エドワード・ジョージ・リットン原作 ●黒馬物語 シュウエル 作
●ジャングル=ブックと短編 ルディヤード・キップリング原作 ●ソロモンの洞窟 ハガード 作
●ボートの三人男 ジェローム 作 ●ラプラタの博物学者 ハドソン 原作
●人形の家 キャサリン・マンスフィールド 原作 ●やみをぬう男 バロネス・オルツィ 原作
『アメリカ編』
●トム=ソーヤーの冒険 ●王子とこじき ●はねがえる マーク・トウェイン原作@
●オズの魔法使い バウム作@ ●小公子 ●小公女 ●秘密の花園 バーネット@
●赤毛のアン モンゴメリー作@ ●『動物記』 シートン原作@
●リップ=バン=ウィンクル アービング原作 ●快傑ゾロ マッカレイ原作@
●アンクル=トムの小屋 ストウ夫人原作 ●若草物語 オルコット原作
●少女パレアナ エレナ・ポーター作 ●リーマスおじさん ハリス原作
●モヒカン族の最後 クーパー作 ●ケティ物語 クーリッジ作
●ワンダーブックほか短編 ナサニエル・ホーソ原作
●銀のスケートぐつ ドッジ原作 ●小じか物語 ローリングス原作
『フランス』
●十五少年漂流記 ●八十日間世界一周 ●海底二万里 ジュール・ベルヌ@
●昆虫記 アンリ・ファーブル原作@ ●三銃士 デュマ原作@ ●ペロー童話@
●美女と野獣 ボーモン夫人原作@ ●愛の妖精 ジョルジュ・サンド原作@
●森のめじか ドーノワ夫人原作 ●寓話集 ラ=フォンテーヌ原作
●学問のあるろばの話 セギュール夫人原作 ●リラダン短編 リラダン原作
●風車小屋だより ●月曜物語 ドーデ原作 ●家なき娘 マロ原作
●ルコック探偵 エミール・ガボリオ原作 ●フィリップ短編 シャルル・ルイ・フィリップ作
●ポールとビルジニイ ベルナルダン・ド・サン・ピエール原作
『ドイツ』
●みつばちマーヤの冒険 ボンゼルス原作@ ●バンビ ザルテン原作@
●ほら男爵の冒険 ビュルガー原作@ ●ウィリアム=テル シラー原作@
●グリム童話 グリム兄弟原作@ ●くるみ割り人形 E・T・A・ホフマン原作@
●アルプスの少女 ヨハンナ・スピリ作@ ●飛ぶ教室 エリヒ・ケストナー原作@
●隊商 ウィルヘルム・ハウフ原作 ●水晶 アーダルベルト・シュティフター原作
●影をなくした男 シャミッソー原作 ●たのしき放浪児 アイヘンドルフ原作
●ゴッケル物語 ブレンターノ原作 ●愛の一家 ザッパー原作
●沈鐘 ハウプトマン作 ●人形使いのポーレ テオドル・シュトルム作
●フラウ=ゾルゲ ズーダーマン作 ●ウィーンの老音楽師 グリルパルツェル原作
●兄と妹 エッセンバッハ原作 ●めくらのジェロニモ シュニッツラー作
『ロシア』
●偉大なる王 ニコライ・バイコフ原作@
●せむしの子馬 エルショフ原作
●ルスランとリュドミーラ ●スペードの女王 プーシキン原作
●アファナーシェフ童話集 アファナーシェフ原作 ●金どけい パンテレーエフ原作
●チムールとその隊員 ガイダール原作 ●信号 ガルシン原作
●少女ベーラ ―現代の英雄より― ミハイル・レールモントフ原作
●十二月物語 サムイル・ヤーコブレビチ・マルシャーク原作
●白いむく犬 アレクサンドル・イワーノビチ・クプーリン原作
●若き親衛隊 アレクサンドル・アレクサンドロビチ・ファジェーエフ原作
●ビーチャの学校生活 ニコライ・ニコラエビチ・ノーソフ原作
●サーカスのゴムまり小僧 ドミトリー・バシリエビチ・グリゴロービチ原作
●ネズナイカ ニコライ・ニコラエビチ・ノーソフ原作
●石の花 パーヴェル・ペトローヴィチ・バジョーフ原作
●町からきた少女 リュボーフィ・フョードロブナ・ボロンコーワ原作
チップス先生さようなら 1934年 vs 飛ぶ教室 1933年 ほぼ同年代と興味深い
『古典編』
●ギリシア神話@ ●ホメーロス物語(イーリアス/オデュッセイア)@
●聖書物語@ ●イソップ寓話@ ●アラビアン=ナイト@
●ニーベルンゲンの歌 ●ローランの歌 ●ワイナモイネン物語 『カレワラ』より
●中世騎士物語:ブルフィンチ (ドン・キホーテはパロディ)
『北欧』
●童話・絵のない絵本・即興詩人 アンデルセン原作@ ●ペール=ギュント イプセン原作
『南欧』
●ピノッキオ コロッディ原作@ ●クオレ アミーチス原作@
『アジア』
●ジャータカ物語(前生譚)@ ●聊斎志異 蒲松齢・原作@
●大勇士ルスタム物語 ―『シャーナーメ』より― フェルドゥーセィー原作
●シャクンタラー カーリダーサ原作
『イギリス編』
●ガリバー旅行記 ジョナサン・スウィフト原作 @ ●マザーグース@
●クリスマス・カロル ●オリバー=ツイスト ディケンズ原作@
●宝島 ●ジキル博士とハイド氏 スチーブンソン原作@ ●幸福な王子 ワイルド原作@
●ロビン=フッドの冒険 イギリス民話@ ●フランダースの犬 ウィーダ 原作@
●ふしぎの国のアリス キャロル原作@ ●ピーター・パン バリ 原作@
●透明人間 ウェルズ 原作@ ●ホームズの冒険 ●失われた世界 ドイル 作@
●トム=ブラウンの学校生活 ヒューズ原作 ●ばらと指輪 ウィリアム・サッカレー原作
●名犬クルーソー ロバート・バランタイン原作 ●イノック=アーデン テニスン 原作
●ウェスト=ポーリー探検記 トーマス・ハーディ原作 ●黄金の川の王さま ラスキン 作
●ポンペイ最後の日 エドワード・ジョージ・リットン原作 ●黒馬物語 シュウエル 作
●ジャングル=ブックと短編 ルディヤード・キップリング原作 ●ソロモンの洞窟 ハガード 作
●ボートの三人男 ジェローム 作 ●ラプラタの博物学者 ハドソン 原作
●人形の家 キャサリン・マンスフィールド 原作 ●やみをぬう男 バロネス・オルツィ 原作
『アメリカ編』
●トム=ソーヤーの冒険 ●王子とこじき ●はねがえる マーク・トウェイン原作@
●オズの魔法使い バウム作@ ●小公子 ●小公女 ●秘密の花園 バーネット@
●赤毛のアン モンゴメリー作@ ●『動物記』 シートン原作@
●アンクル=トムの小屋 ストウ夫人原作 ●若草物語 オルコット原作
●少女パレアナ エレナ・ポーター作 ●リーマスおじさん ハリス原作
●モヒカン族の最後 クーパー作 ●ケティ物語 クーリッジ作
●ワンダーブックほか短編 ナサニエル・ホーソ原作
●銀のスケートぐつ ドッジ原作 ●小じか物語 ローリングス原作
『フランス』
●十五少年漂流記 ●八十日間世界一周 ●海底二万里 ジュール・ベルヌ@
●昆虫記 アンリ・ファーブル原作@ ●三銃士 デュマ原作@ ●ペロー童話@
●美女と野獣 ボーモン夫人原作@ ●愛の妖精 ジョルジュ・サンド原作@
●森のめじか ドーノワ夫人原作 ●寓話集 ラ=フォンテーヌ原作
●学問のあるろばの話 セギュール夫人原作 ●リラダン短編 リラダン原作
●風車小屋だより ●月曜物語 ドーデ原作 ●家なき娘 マロ原作
●ルコック探偵 エミール・ガボリオ原作 ●フィリップ短編 シャルル・ルイ・フィリップ作
●ポールとビルジニイ ベルナルダン・ド・サン・ピエール原作
『ドイツ』
●みつばちマーヤの冒険 ボンゼルス原作@ ●バンビ ザルテン原作@
●ほら男爵の冒険 ビュルガー原作@ ●ウィリアム=テル シラー原作@
●グリム童話 グリム兄弟原作@ ●くるみ割り人形 E・T・A・ホフマン原作@
●アルプスの少女 ヨハンナ・スピリ作@ ●飛ぶ教室 エリヒ・ケストナー原作@
●影をなくした男 シャミッソー原作 ●たのしき放浪児 アイヘンドルフ原作
●ゴッケル物語 ブレンターノ原作 ●愛の一家 ザッパー原作
●沈鐘 ハウプトマン作 ●人形使いのポーレ テオドル・シュトルム作
●フラウ=ゾルゲ ズーダーマン作 ●ウィーンの老音楽師 グリルパルツェル原作
●兄と妹 エッセンバッハ原作 ●めくらのジェロニモ シュニッツラー作
『ロシア』
●偉大なる王 ニコライ・バイコフ原作@
●せむしの子馬 エルショフ原作
●ルスランとリュドミーラ ●スペードの女王 プーシキン原作
●アファナーシェフ童話集 アファナーシェフ原作 ●金どけい パンテレーエフ原作
●チムールとその隊員 ガイダール原作 ●信号 ガルシン原作
●少女ベーラ ―現代の英雄より― ミハイル・レールモントフ原作
●十二月物語 サムイル・ヤーコブレビチ・マルシャーク原作
●白いむく犬 アレクサンドル・イワーノビチ・クプーリン原作
●若き親衛隊 アレクサンドル・アレクサンドロビチ・ファジェーエフ原作
●ビーチャの学校生活 ニコライ・ニコラエビチ・ノーソフ原作
●サーカスのゴムまり小僧 ドミトリー・バシリエビチ・グリゴロービチ原作
●ネズナイカ ニコライ・ニコラエビチ・ノーソフ原作
●石の花 パーヴェル・ペトローヴィチ・バジョーフ原作
●町からきた少女 リュボーフィ・フョードロブナ・ボロンコーワ原作
2016年4月12日火曜日
サンクチュアリ
1929年5月、ホレス・ベンボウという弁護士が、その生活、配偶者および継娘に不満を抱き、突然ミシシッピ州キンストンの家を出て、ヨクナパトーファ郡の故郷ジェファスンに向かって歩き始めた。ジェファスンには未亡人になった妹のナーシサ・サートリスとその息子および亡夫の大伯母ミス・ジェニーが住んでいた。ベンボウは途中で「オールド・フレンチマン」という家の近くで泉の水を飲もうと立ち止まる。そこでポパイという名の邪悪な印象の男に出会う。ポパイはベンボウを「オールド・フレンチマン」に伴う。その家はウィスキーの密造者リー・グッドウィンが使っており、グッドウィンとその内縁の妻ルービー・ラマー、さらにはグッドウィンの密造仲間と会う。その夜遅くベンボウはジェファスンに行くトラックに便乗させてもらう。ジェファスンに着いたベンボウは妹とミス・ジェニーに妻を置いて出てきたと説明し、何年も空き家だった両親の家に移動すると告げる。
バージニア大学を卒業した若者ガウァン・スティヴンズはベンボウの妹ナーシサに求婚して断られる。スティヴンズはミシシッピ大学の女学生テンプル・ドレイクとデートする。テンプルはオクスフォードの町の青年の間では評判の「ファストガール」(性的に奔放な女子)である。彼女の名前はミシシッピ大学の男の部屋にふしだらさを仄めかす言葉と共に落書きされていた。テンプルの父は著名で力のある判事なので、彼女は金の世界と上流社会から出てきていた。可愛いが浅薄であり、同時に性とさもしい人間の本能に魅せられながら反発も感じていた。スティヴンズはオクスフォードであった金曜日の夜のダンスパーティにテンプルをエスコートした後、翌朝は鉄道駅で彼女に会おうと計画する。テンプルはスタークヴィルで開催される野球の試合にクラスメイトと共に付き添いつき遠出に行くはずだった。彼女は付き添いから逃れて列車から降り、スティヴンズの車で試合を見に行くことにしていた。スティヴンズはバージニアで「紳士のように酒の飲み方を習った」というアルコール依存症であり、ダンスの後でテンプルを送って行った後、地元の若者を車に乗せて町に行くことを提案する。彼らに1クォート(約1リットル)のムーンシャイン(密造酒)を手に入れさせ、自分の酒の強さを見せるために彼らと鷹揚に飲み交わす。スティヴンズは飲みすぎて、駅に置いた自分の車の側で眠り込んでしまう。
翌朝、スティヴンズはひどい二日酔いで目覚め、スタークヴィル行きの列車に乗り遅れたことが分かる。彼は密造酒の残っていた瓶を飲み干し、車を全速力で走らせてテイラーの町で列車に追いつき、テンプルを拾う。スタークヴィルに向かう途中、スティヴンズはさらにアルコールを手に入れるためにグッドウィンの家に寄ることにする。既に酔っていたスティヴンズは、ポパイが警官の襲撃を心配して道路を塞ぐように切り倒していた樹木に衝突する。この事故が起こったときに偶々近くにいたポパイとトミーが、テンプルと怪我をしたものの重傷ではないスティヴンズを連れてグッドウィンの家に戻る。テンプルはスティヴンズの向こう見ずさと酩酊振りを怖れ、また連れて行かれた家の奇妙で不穏な下層階級の雰囲気を怖れる。グッドウィンの家に着くと直ぐにルービーに出遭う。ルービーは夜になる前にそこから出て行いった方が良いと警告する。スティヴンズはトミーからさらに酒を手に入れて飲む。トミーは善良で「間が抜けた」男であり、グッドウィンのために働き、その家に住んでいる。
夜が来て、スティヴンズは再び酔っ払ってしまい、テンプルはルービーの忠告を容れずに逃げ出せないでいる。グッドウィンが家に帰って来て、スティヴンズとテンプルが居ることに不満を抱く。グッドウィンは密造の仲間であるヴァンを連れてきている。男達は皆飲み続け、ヴァンとスティヴンズが議論を始めて互いを挑発し、夜の間に何度も殴り合いそうになる。ヴァンはテンプルに野卑なアプローチを行い、バージニアの紳士になったであろうスティヴンズにテンプルの名誉を守る必要があることを思い出させる。テンプルは状況が理解できず、ルービーから男達と離れているように忠告されていたにも拘わらず、またヴァンのいやらしい歓迎できないアプローチがあったにも拘わらず、男達が飲んでいる部屋に走りこんだり出て行ったりする。テンプルは寝室に身を隠す。ヴァンとスティヴンズが殴り合いになり、酔っ払っていたスティヴンズをヴァンが直ぐに殴り倒す。男達は気を失ったスティヴンズをテンプルが小さくなっている部屋に運び、ベッドの上に投げ上げる。彼らはその部屋に何度も出たり入ったりしてテンプルに嫌がらせをする。最終的に男達は真夜中にウィスキーを運び出すために立ち去る。
翌朝、スティヴンズは目が覚めてテンプルを置いたままコソコソと家から出て行く。テンプルは翌朝も男達のほとんどが回りにいなくても怯えている。善良なトミーが彼女を畜舎の綿殻の中に隠すが、ポパイは直ぐに彼らがそこに居ることに気付く。ポパイはトミーの後頭部を拳銃で撃って殺害し、トウモロコシの穂軸でテンプルを強姦する。その後でポパイはテンプルを自分の車に乗せ、地下犯罪組織で関わりのあったテネシー州メンフィスに連れて行く。
グッドウィンがトミーの死骸を発見し、ルービーが近くの家から警察に電話を掛ける。警察はトミーを殺したのがグッドウィンだと思って彼を逮捕する。グッドウィンはポパイのことを怖れていたので、自分に罪の無いこと以外は警官に告げようとしない。グッドウィンはジェファスンの刑務所に収容される。ベンボウはこの事件について知って、グッドウィンが報酬を払えないと知っていたにも拘わらず、即座に彼の弁護を引き受ける。ベンボウはルービーとその病気のような赤子をジェファスンの自分の家に滞在させようとするが、妹のナーシサはその家の共同所有者であり、ベンボウが居ようと居なかろうと彼女がそこに留まることを拒否する。ルービーは私生児の子供と共に居る町では堕落した女(売春婦)として知られている。しかも密造酒を作っているリー・グッドウィンと「罪な生活」をしていた。ナーシサはルービーのような完全に受け容れがたい女性との関係で家名が町の噂になる可能性に思いつく。ベンボウは妹の願いを満足させジェファスンの社会的道徳を考えて、ルービートその息子を町のホテルに移すしかなくなる。
ベンボウは理想主義者で真実と正義の強い信奉者であり、グッドウィンに裁判所でポパイのことを話させるように努めるが成功しない。グッドウィンはたとえ自分が刑務所に入っていても、ポパイなら殺すことができると感じている。自分の無罪を信じているので、証言を拒む。ベンボウは間もなく、ルービーの口からトミーが殺されたときにテンプルがグッドウィンの家に居たことが分かる。この事実は当初グッドウィンがベンボウに話そうとしなかったことだった。ベンボウはミシシッピ大学に行ってテンプルを探すが、そこでテンプルが退学したことを知る。ジェファスンに戻る列車の中でクラレンス・スノープスという調子の良い州上院議員と出遭う。スノープスは新聞で読んだことだと言って「ドレイク判事の娘」テンプルが父によって「北部に送られた」ということを告げる。実際のところ、テンプルはミス・リーバが所有するメンフィスの売春宿の部屋に住んでいる。ミス・リーバは喘息持ちの未亡人であり、ポパイのことを高く買っていて、彼がやっと愛人を選んだことに満足している。ポパイはテンプルをそこに住まわせ、行きたいときにいつでも来られるようにしている。
ベンボウがオクスフォードへの旅行から戻ってくると、ホテルのオーナーが着実に盛り上がっていた世間の非難の声に屈してルービーとその子供を追い出していたことを知る。ベンボウは再度ルービーを自分達の家に滞在させるよう妹を説得しようとするが、ナーシサは再度拒否する。ベンボウはルービーのために町外れに滞在場所を見つける。そこは半気違い女が呪い師として惨めな生活を補っている掘っ立て小屋だった。
クラレンス・スノープスはメンフィスのミス・リーバの売春宿を訪れて、テンプルがそこにいることを知る。かれはこの情報がベンボウにとって価値あることを知る。ベンボウがテンプルをその大学で探していたことを思い出す。さらにテンプルの父であるドレイク判事にとっても価値がある情報であることを認識する。スノープスはベンボウにその情報を売ることを申し出る。このときベンボウが拒否すれば「別の者」に売るかもしれないことを仄めかす。ベンボウがその情報を買うことに合意すると、スノープスはメンフィスのミス・リーバの売春宿でテンプルを見たことを告げる。ベンボウは即座にメンフィスに向かい、ミス・リーバにテンプルと話をさせるよう説得する。ミス・リーバは、もしグッドウィンが有罪となった場合に、ルービーとその子供が独力で生きていくしかないと分かり、グッドウィンの災難に同情するが、依然としてポパイを賞賛し、尊敬している。テンプルはベンボウに、ポパイの手で強姦された様子を伝える。ベンボウは動揺し、ジェファスンに戻る。
テンプルはこの時完全に堕落するようになっていた。ミス・リーバの召使であるミニーを買収して15分間だけ家から抜け出し、近くのドラッグストアから電話を掛ける。夕方に再度家を出るが、家を見張って外の車で待っているポパイを見つける。ポパイはテンプルを乗せてグロトーというロードハウスに連れて行く。テンプルは人気のある若いギャング、レッドとこのクラブで会う手はずをしていた。テンプルはレッドとセックスし、ポパイがそれを見ているようになっている。その夜、ポパイは方をつけるためにレッドとの対決を計画し、テンプルが残ることになる全ての者との対決も考えていた。
そのクラブでテンプルは酷く酔っ払い、奥の部屋でレッドと隠れたセックスをしようとするが、レッドは暫くの間テンプルを撥ね付ける。ポパイのギャング仲間2人がテンプルをクラブから連れ出し、ミス・リーバの家に連れ帰る。ポパイはレッドを殺す。このことでミス・リーバはポパイに反感を抱くようになる。彼女は友人数人に事の次第を伝え、レッド殺しの容疑でポパイが捕まり死刑にされることを願うようになる。
ベンボウはその妻に手紙を書いて離婚を求める。妹のナーシサが地方検事を訪問し、ベンボウが今回の裁判ではできるだけ早く負けて、このような卑しむべき事件に関わることを止めることを望んでいると告げる。ベンボウの顧客(グッドウィン)が有罪になることを地方検事が保障すると、ナーシサはベンボウの妻に彼が間もなく家に戻るだろうと書いた手紙を送る。スノープスは目の周りに黒い痣をつけて現れ、「メンフィスのユダヤ人弁護士」が彼の提供する情報にそれなりの報酬を払わず、彼を殴りつけたとぼやく。
ベンボウはミス・リーバを通じてテンプルと連絡を取ろうとするが、ポパイとテンプルが去ったと告げられる。裁判は6月20日に始まる。グッドウィンはポパイがいつでもジェファスンに現れて自分を殺すと信じ続けており、裁判はうまく行かない。裁判の2日目、メンフィスの弁護士がテンプルを従えて現れる。テンプルが証人に立ち、衝撃的な(しかも嘘の)証言で法廷を震撼とさせる。ポパイではなくグッドウィンがトミーを射殺し、彼女を強姦したと告げる。さらに衝撃的なことに地方検事が証拠のトウモロコシの穂軸を提出する。それには黒褐色の血糊がのこっている。それはテンプルが強姦された穂軸だった。テンプルは偽証を行ったあとに、父であるドレイク判事によって法廷から連れ出される。
陪審員はわずか8分間の協議の後にグッドウィンが有罪であるという結論を出す。傷心のベンボウは妹の家に連れ戻される。ベンボウは夕方に取り乱したまま家の外に彷徨い出て町に行き、グッドウィンの体に付けられたガソリンの燃え上がる様を目撃する。彼は怒った暴徒によって刑務所から引き摺り出され、拷問され、私刑にされていた。翌日ベンボウは挫折した気持ちで妻のもとに帰る。
皮肉にもポパイはフロリダ州ペンサコーラにいる母を訪問するために移動している途中、犯していない犯罪の容疑で逮捕され処刑される。テンプルとその父は小説の最後のシーンでパリのリュクサンブール公園に現れ、そこに隠れ場(サンクチュアリ)を見出している。
死の床に横たわりて
バンドレン一家の近くに住むコーラ・タルは「骨のあるのがすぐ皮膚の下に白い筋になって判る」(11ページ)ほどやつれたアディの顔を眺めていました。外から鋸を使って木を切る音が聞こえてきます。
腕のいい大工職人で、アディの長男のキャッシュが棺桶を作っているのでした。そこへ、次男のダールと三男のジュエルが帰って来ます。
(不義の子 ジュエル 宝石)
アディの夫のアンスは、コーラの夫のヴァーノン・タルと、アディがもし死んだら、アディの生まれ故郷のヨクナパトーファ郡ジェファソンにある先祖代々の墓に埋葬すると約束したことを話していました。
年齢的にはジュエルの下にあたるデューイ・デルは、綿つみの仕事が一緒だったレーフという男の子供を妊娠して困っており、末っ子のヴァーダマンは、知的な障害があって、物事をうまく把握できません。
町医者のピーボディがやって来た時にはアディはもう手遅れでした。
アディは息を引き取ると棺桶に入れられますが、動き回る父の影を感じながら、ヴァーダマンは、「あん時は、魚じゃなくて、母ちゃんだった、今じゃ魚で、母ちゃんじゃない」(74ページ)と思います。
ジェファソンへ向けてバンドレン一家が出発した日は生憎の雨で、川が増水して橋が渡れなくなっていたり、時間が経てば経つほど死体が臭ってはげたかが寄って来たりと、様々な困難に直面していきます。
旅の道中、ダールはジュエルが15歳の頃を思い出しました。ジュエルは、いつでも眠そうにするようになったのです。ジュエルの仕事はデューイ・デルとヴァーダマンが、代わりにするようになりました。
キャッシュとダールは、ジュエルが夜中にカンカラを持って出かけるのを知って、女のところに行っているなと気が付き、話し合います。
しかし、5ヶ月が過ぎて夏から冬になった時、ジュエルは女の元に通っていたのではないことが、みんなに分かりました。クイックじいさんが持っていた、立派なテキサス馬に乗って、帰って来たからです。
40エーカーの土地を開墾してジュエルは馬を手に入れたのでした。アンスは馬など余計に金がかかると怒りますが、ジュエルは「あんたのもんなんか、一口だって食わせん」(143ページ)と言います。
ダールは何故ジュエルがそんな態度を取ったのか分かりませんでしたが、その夜、ジュエルの枕元で暗闇の中母アディが泣き声も出さずに激しく泣いているのを見て、その理由がはっきりと分ったのでした。
元々は小学校の教師をしていたアディ。やがて、わざわざ4マイルも遠回りをして、アンスが馬車で学校を通りがかっていることに気付き、アンスの求婚を受けて結婚しキャッシュとダールが産まれます。
しかしアディにとってアンスは、無意味な存在になっていきました。
アンスを遠ざけている内にジュエルを身ごもったアディは、家を清めるためにデューイ・デルを産み、やがてヴァーダマンも産んで、死んだ後はジェファソンに埋葬してほしいと思うようになったのでした。
大工仕事中に転落して足を痛めているキャッシュ、家族を観察して様々なことを考えるようになったダール、兄弟で一人だけのっぽのジュエル、お腹の子をどうしようかと悩み続けているデューイ・デル。
そして現実がよく分からず、「また水のところへゆけば、母ちゃんが見えるんだ。母ちゃんは箱の中にはおらん。あんな臭いなんかせん。母ちゃんは魚だ」(211ページ)と思い続けているヴァーダマン。
はたして、それぞれの思惑や悩みを抱えるバンドレン一家は、無事にアディをヨクナパトーファ郡ジェファソンで埋葬出来るのか!?
とまあそんなお話です。恋人の死など物語では時に美しく描かれる死ですが、フォークナーはとことんリアル、そしてとことんグロテスクに描いています。思わず顔をおおいたくなるような、異臭漂う作品。
視点はころころ変わりますし、「意識の流れ」が書かれるだけに文体はかなり特殊、いきなり過去の話が挿入されて、時系列もばらばら。
とにかく読みづらいので、簡単におすすめは出来ませんが、しかし一人の人間の死を、これほど多角的に描いた作品が他にあるでしょうか? しかも、少しずつ意外な出来事が明らかになっていく面白さ。
一つの家族、そして一人の人間の死にスポットをあてているだけに、衝撃的な犯罪事件を描いた他の作品と比べてより胸に響くものがあったような気がします。興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。
明日もウィリアム・フォークナーで、『アブサロム、アブサロム!』を紹介する予定で、今回のフォークナー特集は、次回で終わりです。
腕のいい大工職人で、アディの長男のキャッシュが棺桶を作っているのでした。そこへ、次男のダールと三男のジュエルが帰って来ます。
(不義の子 ジュエル 宝石)
アディの夫のアンスは、コーラの夫のヴァーノン・タルと、アディがもし死んだら、アディの生まれ故郷のヨクナパトーファ郡ジェファソンにある先祖代々の墓に埋葬すると約束したことを話していました。
年齢的にはジュエルの下にあたるデューイ・デルは、綿つみの仕事が一緒だったレーフという男の子供を妊娠して困っており、末っ子のヴァーダマンは、知的な障害があって、物事をうまく把握できません。
町医者のピーボディがやって来た時にはアディはもう手遅れでした。
わしが出てくると、二人はポーチにいて、ヴァーダマンは階段に腰をおろし、アンスは柱のそばに立ち、寄りかかりもせんで、腕をだらんと垂らし、髪は、水につかった雄鶏そっくりにぴったりともつれ合っとる。奴さんは頭だけ向け、わしのほうをちらりと見た。
「どうしてもっと前に呼びにこんかったんじゃ?」わしはいう。
「あれや、これやとあってな」奴はいう。「わしと息子たちで玉蜀黍の始末をつけるつもりじゃったし、デューイ・デルはアディの看病してるし、それに近所の連中が来て、手伝おうといってくれたりするんで、結局わしゃあ……」
「金なんかなんじゃい」わしはいう。「払えねえうちから、わしが責め立てたりしたたためしがあるかい?」
「金をケチケチしたんじゃねえんで」奴はいう。「わしゃただ、ずっと考えてただが……アディはもうおしまいでしょうが?」
(50ページ)
「どうしてもっと前に呼びにこんかったんじゃ?」わしはいう。
「あれや、これやとあってな」奴はいう。「わしと息子たちで玉蜀黍の始末をつけるつもりじゃったし、デューイ・デルはアディの看病してるし、それに近所の連中が来て、手伝おうといってくれたりするんで、結局わしゃあ……」
「金なんかなんじゃい」わしはいう。「払えねえうちから、わしが責め立てたりしたたためしがあるかい?」
「金をケチケチしたんじゃねえんで」奴はいう。「わしゃただ、ずっと考えてただが……アディはもうおしまいでしょうが?」
(50ページ)
アディは息を引き取ると棺桶に入れられますが、動き回る父の影を感じながら、ヴァーダマンは、「あん時は、魚じゃなくて、母ちゃんだった、今じゃ魚で、母ちゃんじゃない」(74ページ)と思います。
ジェファソンへ向けてバンドレン一家が出発した日は生憎の雨で、川が増水して橋が渡れなくなっていたり、時間が経てば経つほど死体が臭ってはげたかが寄って来たりと、様々な困難に直面していきます。
旅の道中、ダールはジュエルが15歳の頃を思い出しました。ジュエルは、いつでも眠そうにするようになったのです。ジュエルの仕事はデューイ・デルとヴァーダマンが、代わりにするようになりました。
キャッシュとダールは、ジュエルが夜中にカンカラを持って出かけるのを知って、女のところに行っているなと気が付き、話し合います。
その後は、えらく滑稽な気がしてきた。奴がぼやっとして、やたらに眠たがって、いそいそ出かけて、やせっこけて、自分じゃうまく立ち廻ってる気でいやがる。相手の女はだれだろうかと考えてみた。それらしいのを知ってる限り、思いうかべてみたが、どうもはっきりと判らんかった。
「若い子じゃねえ」キャッシュがいった。「どこかの人妻だよ。若い子じゃ、こんなに図々しく、またこんなにねばる力があるわけねえ。そこが困るとこじゃが」
「どうして?」俺はいった。「娘っ子より人妻のほうが無難じゃねえか。もっと頭を使えや」(137ページ)
「若い子じゃねえ」キャッシュがいった。「どこかの人妻だよ。若い子じゃ、こんなに図々しく、またこんなにねばる力があるわけねえ。そこが困るとこじゃが」
「どうして?」俺はいった。「娘っ子より人妻のほうが無難じゃねえか。もっと頭を使えや」(137ページ)
しかし、5ヶ月が過ぎて夏から冬になった時、ジュエルは女の元に通っていたのではないことが、みんなに分かりました。クイックじいさんが持っていた、立派なテキサス馬に乗って、帰って来たからです。
40エーカーの土地を開墾してジュエルは馬を手に入れたのでした。アンスは馬など余計に金がかかると怒りますが、ジュエルは「あんたのもんなんか、一口だって食わせん」(143ページ)と言います。
ダールは何故ジュエルがそんな態度を取ったのか分かりませんでしたが、その夜、ジュエルの枕元で暗闇の中母アディが泣き声も出さずに激しく泣いているのを見て、その理由がはっきりと分ったのでした。
元々は小学校の教師をしていたアディ。やがて、わざわざ4マイルも遠回りをして、アンスが馬車で学校を通りがかっていることに気付き、アンスの求婚を受けて結婚しキャッシュとダールが産まれます。
しかしアディにとってアンスは、無意味な存在になっていきました。
その時のアンスには、自分がもう死んでいることが判っていなかった。時折り、私は暗闇の中で、彼のそばに寝ていて、今は私のいわば血肉のものとなった土地の音を聞きながら、考えたものだった。アンス、どうしてアンスなの、あんたがなぜアンスなの。アンスという名前のことを考えているうち、しばらくすると、名前が一つの形、一つの容器に見えてきて、じっと見守っているうちに、アンスが液化して、容器の中に流れこみ、まるで冷たい糖蜜が暗闇から容器の中に流れこむみたいに、瓶はいっぱいになって、じっと立っている。戸の枠に戸がはまっていないみたいに、意味はありながら、まるで生命のない、ただの形。すると、瓶の名前も忘れていたことに気づくのだ。(184~185ページ)
アンスを遠ざけている内にジュエルを身ごもったアディは、家を清めるためにデューイ・デルを産み、やがてヴァーダマンも産んで、死んだ後はジェファソンに埋葬してほしいと思うようになったのでした。
大工仕事中に転落して足を痛めているキャッシュ、家族を観察して様々なことを考えるようになったダール、兄弟で一人だけのっぽのジュエル、お腹の子をどうしようかと悩み続けているデューイ・デル。
そして現実がよく分からず、「また水のところへゆけば、母ちゃんが見えるんだ。母ちゃんは箱の中にはおらん。あんな臭いなんかせん。母ちゃんは魚だ」(211ページ)と思い続けているヴァーダマン。
はたして、それぞれの思惑や悩みを抱えるバンドレン一家は、無事にアディをヨクナパトーファ郡ジェファソンで埋葬出来るのか!?
とまあそんなお話です。恋人の死など物語では時に美しく描かれる死ですが、フォークナーはとことんリアル、そしてとことんグロテスクに描いています。思わず顔をおおいたくなるような、異臭漂う作品。
視点はころころ変わりますし、「意識の流れ」が書かれるだけに文体はかなり特殊、いきなり過去の話が挿入されて、時系列もばらばら。
とにかく読みづらいので、簡単におすすめは出来ませんが、しかし一人の人間の死を、これほど多角的に描いた作品が他にあるでしょうか? しかも、少しずつ意外な出来事が明らかになっていく面白さ。
一つの家族、そして一人の人間の死にスポットをあてているだけに、衝撃的な犯罪事件を描いた他の作品と比べてより胸に響くものがあったような気がします。興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。
明日もウィリアム・フォークナーで、『アブサロム、アブサロム!』を紹介する予定で、今回のフォークナー特集は、次回で終わりです。
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