2016年5月30日月曜日

グラース家とコールフィールド家

グラース家 はアメリカ20世紀を代表する作家、J・D・サリンジャーの連作物語に登場する一家である。この連作物語を読むにつれて、パズルのように、グラース一家の家族関係が徐々に明らかになる設定になっている。サリンジャーはこの連作の完成に言及していたが、”Hapworth 16, 1924” (1965)刊行後音沙汰が無い。7人の兄弟姉妹は「これは神童」(It's a Wise Child)というラジオのクイズ番組に次々と出演しており、この番組の出演料で大学への学費を稼いでいた。長男のシーモアから末のフラニーには18歳の隔たりがある為、永らくグラース兄弟がそのラジオ番組を独占していた。ウィットとエスプリに満ちた家族間の会話・手紙のやり取り等が特徴。この一家は、作者サリンジャーが生まれ育った家庭と同様に、父方がユダヤ系で母方がアイルランド系という設定になっている。
  • 母親はベシー。『ゾーイー』にて登場。
  • 父親はレス
  • グラース一家の支柱を成すのは長男のシーモア。どの家族も彼の影響を多分に受けている。『バナナフィッシュにうってつけの日』(ナイン・ストーリーズの1編)に登場する(なお、そこで彼は拳銃自殺してしまう)。他作品では登場人物が彼を語るか、彼の書いた手紙・日記などから間接的に描かれる事が多い。『テディ』という作品の主人公、テディはシーモアの前身と思われる。
  • 次男はバディ。多くの作品を彼が書いた事になって居る。『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』に主人公として登場。
  • 次に続くのが長女のブーブーで、タネンバウム家に嫁ぎ、一児ライオネルの母となる。反ユダヤ主義をモチーフにした『小舟のほとりで』?に登場。
  • ウォルトウェーカーは双子の兄弟。ウェーカーの方が12分後に生まれた。ウォルトは第二次世界大戦後の日本占領時において不慮の事故(ストーブの爆発)で死亡。『コネティカットのひょこひょこおじさん』(ナイン・ストーリーズの1編)で間接的にウォルトに言及している場面がある。
  • 五男のゾーイーは『フラニーとゾーイー』に登場。美貌の青年で俳優業に就く。本名はザカリ・グラース。
  • 次女はフラニー。『フラニーとゾーイー』に登場。本名はフランシス・グラース。
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コールフィールド家 小説の中に初めてホールデンの名前が登場するのは、有名な『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)ではなく、1941年に執筆された『マディソン街はずれの小さな反抗』である。しかし第二次世界大戦直前に出版をキャンセルされ、正式な発表は戦後の1946年となった。すなわち出版順にみれば、1944年に発表された『最後の休暇の最後の日』が最初となる。
 ホールデンの設定は作品ごとに少々異なっている。大戦前の『マディソン街はずれの小さな反抗』(1941年執筆、1946年出版)では、高校生の少年で、主人公である。大戦中の『最後の休暇の最後の日』(1944年)『マヨネーズ抜きのサンドイッチ』(1945年)では、軍隊に入隊した二十歳である。しかし本人は直接は登場せず主人公は別におり、兄ヴィンセント・コールフィールドの口から戦地で行方不明になっていると語られる。戦後の『気ちがいのぼく』(1945年)『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)は十六歳の高校生で、主人公である。
 独特の言い回しと少年らしい潔癖さやデリケートな感性、また弱者に対する優しさなど、発表から半世紀経った現在も色褪せることなく読み継がれる主人公のひとりである。

コールフィールド家の家族構成
 『ライ麦畑でつかまえて
  父(弁護士)
  母
  兄 D.B.(小説家)
  ホールデン(高校を退学)
  弟 アリー(病死)
  妹 フィービー
 『最後の休暇の最後の日
  父
  母(女優)
  兄 ヴィンセント(兵隊、小説家)
  ホールデン(戦地で行方不明)
  弟 ケネス(病死)
  妹 フィービー

2016年5月27日金曜日

写実主義・自然主義とは何か

写実主義、あるいは現実主義は、現実を空想によらず、ありのままに捉えようとする美術上、文学上の主張のこと。
自然主義文学は、19世紀末にフランスで提唱された文学理論に基づく作品、およびそこから影響を受けた日本の20世紀前半の文学のこと。
エミール・ゾラにより定義された学説の下、19世紀末、フランスを中心に起こった文学運動。自然の事実を観察し、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する。チャールズ・ダーウィンの進化論やクロード・ベルナール著『実験医学序説』の影響を受け、実験的展開を持つ小説のなかに、自然とその法則の作用、遺伝と社会環境の因果律の影響下にある人間を描き見出そうとする。

19世紀末のフランスエミール・ゾラの『ナナ』『居酒屋』など)を中心にして起こったものである。ゾラは、人間の行動を、遺伝、環境から科学的、客観的に把握しようとした。

ロマン主義とは何か

ルネサンスは古典主義というべきだが人間中心主義だったのでユマニズムと言われる
それに対抗してバロックがでてくるが、やはり、これに対抗してロココや新古典主義がでてくる

ロマン主義は教条主義、(新)古典主義の対概念としてとらえられるもので、アメリカ哲学者アーサー・ラブジョイは「ロマン主義の時代」を1780年から1830年としている。また、ロマン主義は産業革命の大きな原動力となった。その萌芽は既にベルナルダン・ド・サン=ピエールディドロに見られ、セナンクールスタール夫人バンジャマン・コンスタンフランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアンといった初期ロマン派作家によってそれまで教条主義によって抑圧されてきた個人の根本的独自性を根本とした表現が特徴とされる。これらはナポレオン1世第一帝政に対する文化的抵抗運動の中で文芸サロンサークルの中で醸成された。また、フランスジャン=ジャック・ルソーの著作がドイツに伝えられたことで始まったドイツのロマン主義は、さらに再びフランスに逆輸入される形でその花を開いた。フランスのロマン主義運動はオノレ・ド・バルザック死後の1850年代以降勢いを失い、シャルル・クロス等の小ロマン派を除いては[5]その座を写実主義自然主義高踏派等に譲ることになるが、その影響はヨーロッパ全域に広まり、世紀末から20世紀の初頭の後期ロマン主義にまで及んだ。ロマン主義を信奉する傾向や集団を指してロマン派 とも呼ばれる。
ロマン主義の底流に流れているものは、古典主義や教条主義がしばしば無視した個人の根本的独自性の重視、自我の欲求による実存的不安といった特性である。ロマン主義においては、それまで古典主義において軽視されてきたエキゾチスムオリエンタリズム神秘主義などといった題材が好まれた。またそれまで教条主義によって抑圧されてきた個人の感情、憂鬱不安・動揺・苦悩・個人的な愛情などを大きく扱った。また、古典主義はその技法上の制約によって芸術的自由を抑圧したと非難する主張から、及び古典主義の欠陥に対する反発からロマン主義の一部は出発したとされる。
この特性及び主張は道徳やキリスト教的倫理から文学を解放し、やがて写実主義自然主義へと継承された。 そして、19世紀末からモダニズムを準備された。20世紀は、その行き詰まりからマジック・リアリズムなどが誕生。

2016年5月20日金曜日

ルーゴン・マッカール叢書

巻数題名あらまし装置
1『ルーゴン家の運命』ルーゴンとマッカールの家系のはじまり。
ナポレオン三世のクーデターによるプッサンの動乱。少年シュヴェールと少女ミエットの愛し方さえ知らない幼い二人の悲劇。少女は流れ弾で死に、少年は憲兵に墓場でこめかみを打たれて死ぬ。
装置:プッサンという街。墓場(死者を飲み込む場)。

2『獲物の分け前』オスマン男爵のパリ大改造の下、地上げによって巨万の富を稼ぐアリスティッド・サッカール。若き後妻ルネは夫の連れ子マキシムと温室で不倫にふける。アリスディッドはルネから金を巻き上げて破産を免れ、ルネは若くして死ぬ。
装置:温室(人工楽園)。パリ(人工都市)

3『パリの胃袋』流刑地から逃げ帰ったフロランはパリの中央市場で働くが、そこの人々の讒言によってふたたび島が流しとなる。
装置:パリのレ・アールの中央市場

4『プッサンの征服』フォージャ神父はマルト・ルーゴンの家に住みこみ、いつしかその家ばかりかプッサン市をも支配するにいたる。しかし狂人となったマルトの夫の放火によって家もろとも焼け落ちる。
装置:王党派と共和派の両方がみおろせるマントの家。

5『ムーレ神父のあやまち』マント・ルーゴンの息子で司祭になったムーレはパラデゥ館の秘密の庭に住むアプビーヌと、アダムとイブのように愛し合う。しかし、彼が庭から去ったため、娘は死に、その葬儀を司祭である彼が司ることになる。
装置:秘密の花園。

6『ウジェーヌ=ルーゴン閣下』ウジェーヌ・ルーゴンは第3帝政で失墜の危機の乗り切り副皇帝にまでなる。
装置:政治

7『居酒屋』 ジェルヴェーズ・マッカールはランチエに捨てられた後、トタン職人クーバーの結婚し、洗濯屋を開業するが、舞い戻ったランチエとクーボーの二人と関係し、アル中となって貧窮死する。
装置:蒸留酒製造装置・居酒屋・洗濯屋。

8『愛の1ページ』エレーム・ムーレは娘ジャンヌを救ってくれた医師と不倫し、娘はそれに嫉妬して病死する。別の男と再婚した彼女は娘の墓を訪れ去る。
装置:バルザック邸のあったパッシーの高台から見えるパリ

9『ナナ』ジェルヴェーズの娘ナナは高級娼婦となって多くの男を破滅させるが、最後は天然痘となって死ぬ。
装置:ナナの肉体。

10『ごった煮』プッサンから出てきたオクターヴ・ムーレはアパートの女たちを意のままにあやつる。オスマン様式の表面はきれいなアパートは裏では汚物にまみれ、主人たちと女中との不倫と嬰児殺しが行われている。
装置:オスマン様式のアパート(欲望の館)

11『ボヌール・デ・ダム百貨店』 オクターヴの作った世界初のデパートは女たちの欲望をあおることで大繁盛するが、周りの商店は破産させていく。
装置:デパート(欲望の館)

12『生きる喜び』海辺の家にもらわれたポリーヌ・クニュは莫大な遺産を受け取るが、養い親子に財産をすり減らされる。しかも彼女の財産を散在した婚約者サザールを友人に譲ることになる。
装置:海によって浸食される岸辺の村。金をくすねられる遺産の入った引き出し。

13『ジャルミナール』炭坑に流れ着いたエチエンヌ・ランチエは最初の夜に会ったカトリーヌに強く惹かれる。彼女もランチエに惹かれているが、結局シャバルに暴力的に女にされてしまう。エチエンヌらが中心となって起こした炭坑ストライキは失敗する。炭坑事故で坑内に閉じこめられた二人はようやく愛し合うがカトリーヌは死に、エチエンヌは助かる。労働運動の芽生えを感じつつエチエンヌは炭坑を去る。
装置:炭坑

14『制作』ジェルヴェーズの長男クロードは印象派画家となって、嵐の夜に出会ったクリスティーヌに理想のモデルを見出し、結婚する。しかしパリを描いた大作は印象派風の絵から毒々しい象徴的なものへと変貌を遂げ、作品を完成できぬまま首をつって死ぬ。
装置:キャンバス

15『大地』兵隊くずれのジャン・マッカールは、農民となってまじめに働く。フーアン老夫妻の土地の生前分与が失敗し困窮する。土地の奪い合いの中でジャンは妻も土地もなくして、軍隊にもどる。
装置:土地(投資と生産の装置)

16『夢』シドニー・ルーゴンの私生児アンジェリックは刺繍細工人に拾われて見事な刺繍細工職人となる。いつか王子さまがと夢見る彼女の元にオートクール家の跡取りフェリシアンが現れ、身分を超えての結婚式で彼女は昇天する。
装置:夢を紡ぐ刺繍

17『獣人』駅助役のルボーは若妻セヴリーヌが養父の愛人であったことを知り、養父グランモランを列車内で殺害する。それをたまたま知ったジェルヴェーズの次男クロードはセヴリーヌと愛人関係になり、ルボー殺害を計画するが、狂った殺人衝動からセヴリーヌを殺してしまう。その後ペクーの妻とも不倫したジャックはペクーと走行中の機関車(ラ・リゾン)でもみ合いとなって二人とも転落死する。運転手のない機関車は兵士を乗せて闇夜を疾走していく。
装置:機関車・鉄道

18『金銭』 地上げの後、サッカールはユニバーサル銀行を設立して、株をつり上げ、空前のバブルを出現させる。しかし株価はついに暴落して、多くの破産者を生む。
装置:株式取引所

19『壊滅』兵士の戻ったジャンは、ブルジョワ階級のモーリスと戦友となる。フランス軍は大敗し捕虜となった二人は逃げ出して、モーリスの姉のアンリエットの元でジャンは療養する。その後、モーリスはパリコミューンに参加。また軍にもどったジャンは彼と知らず銃剣で刺し、モーリスは治療のかいもなく死ぬ。惹かれ合っていたアンリエットとジャンは別れる。ジャンはフランスの再生へと歩み出す。
装置:戦争

20『パスカル博士』パスカル・ルーゴン医師は年金生活をしながら、ルーゴンとマッカールの家系の遺伝を研究し、『ルーゴンマッカール叢書』の内容と同じ文書を残す。年の差をこえて結ばれ自分の子を宿した姪のクロチルドに文書を託して死ぬ。しかし一家の汚名をおそれた母フェリシテは文書をすべて焼いてしまう。唯一残った家系図を見ながら、クロチルドは生まれた息子シャルルに授乳するのだった。
装置:家系樹。遺伝要因が交錯・発現 

2016年5月11日水曜日

ディケンズとトウェイン

ディケンズ 1812年2月7日 - 1870年6月9日 58歳で死亡

 ボズのスケッチ集(Sketches by Boz、1836年)
 ピクウィック・クラブ(The Pickwick Papers、1836 - 37年)
 オリヴァー・トゥイスト(Oliver Twist、1837 - 39年)
 ニコラス・ニクルビー(Nicholas Nickleby、1838 - 39年)
 骨董屋(The Old Curiosity Shop、1840 - 41年)
 バーナビー・ラッジ(Barnaby Rudge、1841年)
 マーティン・チャズルウィット(Martin Chuzzlewit、1843 - 44年)
 クリスマス・キャロル(A Christmas Carol、1843年)
ドンビー父子(Dombey and Son、1846 - 48年)
 デイヴィッド・コパフィールド(David Copperfield、1849 - 50年)
 荒涼館(Bleak House、1852 - 53年)このあたりからダーク(40歳頃)
 ハード・タイムズ(Hard Times、1854年)
 リトル・ドリット(Little Dorrit、1855 - 57年)
 二都物語(A Tale of Two Cities、1859年)
 大いなる遺産(Great Expectations、1860 - 61年)
 互いの友(Our Mutual Friend、1864 - 65年)
 エドウィン・ドルードの謎(The Mystery of Edwin Drood、1870年)

トウェイン 1835年11月30日 - 1910年4月21日 75歳で死亡

 『金ぴか時代』(チャールズ・ウォーナーとの共著), 1873年
 『トム・ソーヤーの冒険』"The Adventures of Tom Sawyer", 1876年
 『王子と乞食』"The Prince and the Pauper", 1881年
 『ハックルベリー・フィンの冒険』"Adventures of Huckleberry Finn", 1885年 このあたりからダーク(50歳)
 『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』"A Connecticut Yankee in King Arthur's Court", 1889年
 『ノータリン・ウィルソンの悲劇』"The tragedy of Pudd'nhead Wilson", 1894年
 『ジャンヌ・ダルクについての個人的回想』"Personal Recollections of Joan of Arc", 1895年
 ジャンヌ・ダルクの幼馴染にして、小姓兼秘書として仲間とともにフランス軍に従軍した男ルイス・コントが、
 シャルル7世によるやり直し裁判において、生き証人として彼女の思い出を語る形式で、
 「パラディン」と皮肉をこめて呼ばれていた臆病者が、ジャンヌに感化され勇敢に戦死する
 エピソードなど、ユーモアを交えながら悲劇的な結末を描く。
 『トム・ソーヤーの探偵』"Tom Sawyer, Detective", 1896年
 『ハドリバーグを堕落させた男』"The Man That Corrupted Hadleyburg", 1900年
 『アダムとイヴの日記』"Extracts from Adam's Diary", 1904年
 『不思議な少年』"The Mysterious Stranger", 1916年

英米の国民作家と呼ばれる二人が人生の後半にダークに転じていることは興味深い
バルザックとドストエフスキーは最初からダークサイドを持っていたのも興味深い
ドイツの場合、ゲーテが国民作家と言えるだろうが、ダークサイドを
抑え込んでいるような気もする