2016年6月28日火曜日

現代アメリカ文学 http://fooline.net/america-bunngaku/

アメリカ文学初心者におすすめの現代作家

チャールズ・ブコウスキー

ばかばかしくて可笑しくて、どこか切ない(哀愁)。そんな作品が多い、日本でも人気のアウトロー作家。この人が描く主人公は決まって飲んだくれで、頭のネジがいくつか外れていて、とにかく口が悪い(そしていつも何かに怒っている)。退廃的なキャラクターが多いですが、湿っぽさや陰気さは全くなく、むしろばかばかしくて面白い。コミカルな要素も多く笑えるシーンがたくさんあります。色々作品がありますが、特に短編小説がおすすめ。文章が淡々と進んでいくのでリズムよく読めます。アウトロー作家の作品の作品というと、ドラッグがよく出てきて抵抗がある人が多いと思いますが、ブゴウスキーの場合はそんなに出てこないので大丈夫です。(その分、酒はよく出てきます。だいたい主人公は二日酔い…)


ポール・オースター
最近は日本でもすっかり有名作家になった、ストーリーテラーの名手のポール・オースター。今や本国アメリカよりもむしろ日本やフランスの方が人気が高いようです。ポール・オースターの魅力はとにかく読みやすくてリズム感のある文章、そして何と言っても「ストーリーの面白さ」。読み進めていくとどんどん引き込まれていって止まらなくなる、そんな作品が多く、普段は外国文学をあまり読まないけど「オースターのあの作品は忘れられない一冊」という方も結構います。また、名訳に恵まれているというのも見逃せないところ。ポール・オースターの作品はほぼすべて、柴田元幸(東大教授)さんというアメリカ文学翻訳の第一人者の方が翻訳をしています。ポール・オースター本人とも親交がある名訳者が翻訳していることもあって、原文の雰囲気がしっかりと翻訳に残っています。これは実際に原文と比べてみるとわかります。ちなみに、柴田元幸さんはポール・オースターの代表作『ムーン・パレス』の訳で翻訳大賞を受賞しています。

ジョン・アーヴィング
続いてはアメリカ文学を代表する巨匠、ジョン・アーヴィング。現代アメリカ文学を紹介するなら外せない作家です。この作家もストーリーテラーの名手。特に家族などを扱った物語性の強い作品が多いです。物語がしっかりしている分、ページ数も若干多め。だいたいの長編は上下巻として分けて販売されています。特徴は、個性の強いキャラクターがたくさん出てきて、それぞれの生き方を大きなスケールで描くこと。登場人物のある時期に起こった物語としてではなく、長い人生の中で物語が描かれることが多いです。それも決して幸せで心温まるストーリーばかりとは限らない。だけど物語がしっかりと胸に刺さってくる。そんな作品が多いのが特徴です。


中級者編・アメリカ文学が面白くなってきた人におすすめ

コーマック・マッカーシー

近年、ノーベル文学賞の有力候補として注目を集めている現代アメリカ文学を代表する作家。作品がいくつか映画化(血と暴力の国:ノーカントリー)されたことで、日本でもだいぶ有名になり、翻訳される作品も増えてきました。特徴はその乾いた文体。コーマック・マッカーシーの小説はどれも、感情を削り取ったような冷徹な表現、いわゆるハードボイルドな文体で描かれます。翻訳されて日本で販売されている小説でも、そんな文体の特色が汲み取られた名訳がほとんど。

ドン・デリーロ
続いてもアメリカ現代文学を代表する巨匠、ドン・デリーロ。こちらも最近はノーベル文学賞の常連候補となっている作家なのですが、日本での知名度はなぜか低め。それなりに外国文学を読む人でも知らないという人が多いかもしれません。作風は現代社会の事柄や政治的な問題などを取り入れながら、人々のありさまを鋭い視点で的確に、そして想像力豊かに描き出そうとすること。どの作品も読み応え十分です。ただ、日本での知名度が低いがゆえに残念ながら既に絶版になっている作品が多いのが現実。映画:コズモポリスが有名。

レイモンド・カーヴァー
続いてはアメリカ現代文学における短編小説の名手、レイモンド・カーヴァー。村上春樹がその作品のほとんどを翻訳したことで、日本でも大変有名になった作家です。作風は文章の装飾を必要最低限にとどめ、シンプルに物語を描く、「ミニマリズム」という手法。平坦な文章の中にユーモアがたくさん詰まっていて、時にミステリアスでいろんな解釈を呼び起こすようなストーリーには、日本でも熱狂的なファンがいます。孤独や空虚感、家庭の崩壊や挫折をテーマにした作品が多く、それが肌に合う人にはとにかく病み付きになる作家。村上春樹が好きな人、カフェでじっくり短編小説を読みたい人にとてもおすすめです。

上級者編・アメリカ文学にハマってきた人におすすめ

リチャード・ブローティガン


ヒッピー文化を象徴する作家・詩人、リチャード・ブローティガン。アメリカ文学が好きな人の間ではおなじみの作家なのですが、おそらく一般的にはほとんど知られていないと思います。特徴は、独特な比喩やネーミングで表現される唯一無二の幻想的な世界観。まるで飛び道具のような飛躍的・芸術的なセンテンスは、好きな人には鳥肌モノですが、合わない人はただ「ポカーン…」としてしまうだけかもしれません。
いま、こうしてわたしの生活が西瓜糖の世界で過ぎてゆくように、かつても人々は西瓜糖の世界でいろいろなことをしたのだった。あなたにそのことを話してあげよう。わたしはここにいて、あなたは遠くにいるのだから。

— 「西瓜糖の日々」 藤本和子訳 (河出文庫)
そうだ。あの酔いどれが鱒釣りのことを話してくれたのだ。かれは口がきける状態のときは、さながら知性を備えた貴金属の話でもするような調子で、鱒のことを語るのだった。

— 「アメリカの鱒釣り」 藤本和子訳 (新潮文庫)
リチャード・ブローティガンのこの独特な作風やテーマは、当時のアメリカの若者たちから大きな支持を受け、ヒッピーやウッドストックフェスティバルなどが象徴する、1960年代アメリカの「カウンターカルチャー(対抗文化・若者文化)」の代表的な作家となりました。

スティーヴ・エリクソン
圧倒的な想像力で物語を繰り広げる「幻視の作家」、スティーヴ・エリクソン。おそらく日本ではほとんど知名度がないと思いますが、翻訳家やアメリカ文学の愛好家からの評価は高く、わりと作品も翻訳されていて、絶版にならずにかろうじて出回っています。特徴は、圧倒的な想像力で表現される幻想的な世界観。時間や空間の制限を取り払い、縦横無尽に駆け回る物語は圧巻。読み進めハマっていくうちに、どこか違った世界へ続く時空の穴に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥ります。ただしこの手の作品を読み慣れていない人には結構読みにくいかもしれません。理屈とか手順とか抜きにして話がどんどん膨らんでいき、感情や愛情が強烈に描かれていきますので、慣れない人や肌に合わない人は多分消化不良になるんじゃないかと思います。万人におすすめできる作家ではないですが、特に幻想的な小説が好きな人、文学色の強い作品が好きな人はお気に入りの特別な作家になるかもしれません。
トマス・ピンチョン
  • 現代アメリカ文学を代表する重鎮にして、謎の多い「覆面作家」、トマス・ピンチョン。公の舞台に姿を現すことは一切なく、写真も学生時代と軍隊時代に撮影したたった2枚が発見されているだけ。「全米図書賞」などの権威ある文学賞を受賞しても授賞式には姿を表さず、そもそも受賞辞退をすることも。その素性がほとんど知られていない謎の多い作家です。作品はとにかく長く、難解なことで有名。しばしば「ポストモダン文学」と呼ばれる非形式的、放漫的で、論理性や物語の構築といったストーリー展開の整然さを無視した作風をもち、複雑でつかみ所のない、迷路のような作品が多いのが特徴です。アメリカ文学が好きな人でも、日頃から外国文学をよく読む人でも、最後まで読めずに断念してしまう人が多いです。かなり文学オタク向けな作家だと思います。ただ一方で、熱狂的な信者も多く、近年は定期的にノーベル文学賞候補にも挙げられています。軽々しく手に取ると挫折してしまいそうですが、まとまった休日があれば、思い切って挑戦してみるのも良いと思います。

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