2016年5月30日月曜日

グラース家とコールフィールド家

グラース家 はアメリカの20世紀を代表する作家、J・D・サリンジャーの連作物語に登場する一家である。この連作物語を読むにつれて、パズルのように、グラース一家の家族関係が徐々に明らかになる設定になっている。サリンジャーはこの連作の完成に言及していたが、”Hapworth 16, 1924” (1965)刊行後音沙汰が無い。7人の兄弟姉妹は「これは神童」(It's a Wise Child)というラジオのクイズ番組に次々と出演しており、この番組の出演料で大学への学費を稼いでいた。長男のシーモアから末のフラニーには18歳の隔たりがある為、永らくグラース兄弟がそのラジオ番組を独占していた。ウィットとエスプリに満ちた家族間の会話・手紙のやり取り等が特徴。この一家は、作者サリンジャーが生まれ育った家庭と同様に、父方がユダヤ系で母方がアイルランド系という設定になっている。
  • 母親はベシー。『ゾーイー』にて登場。
  • 父親はレス。
  • グラース一家の支柱を成すのは長男のシーモア。どの家族も彼の影響を多分に受けている。『バナナフィッシュにうってつけの日』(ナイン・ストーリーズの1編)に登場する(なお、そこで彼は拳銃自殺してしまう)。他作品では登場人物が彼を語るか、彼の書いた手紙・日記などから間接的に描かれる事が多い。『テディ』という作品の主人公、テディはシーモアの前身と思われる。
  • 次男はバディ。多くの作品を彼が書いた事になって居る。『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』に主人公として登場。
  • 次に続くのが長女のブーブーで、タネンバウム家に嫁ぎ、一児ライオネルの母となる。反ユダヤ主義をモチーフにした『小舟のほとりで』?に登場。
  • ウォルトとウェーカーは双子の兄弟。ウェーカーの方が12分後に生まれた。ウォルトは第二次世界大戦後の日本占領時において不慮の事故(ストーブの爆発)で死亡。『コネティカットのひょこひょこおじさん』(ナイン・ストーリーズの1編)で間接的にウォルトに言及している場面がある。
  • 五男のゾーイーは『フラニーとゾーイー』に登場。美貌の青年で俳優業に就く。本名はザカリ・グラース。
  • 次女はフラニー。『フラニーとゾーイー』に登場。本名はフランシス・グラース。
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コールフィールド家 小説の中に初めてホールデンの名前が登場するのは、有名な『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)ではなく、1941年に執筆された『マディソン街はずれの小さな反抗』である。しかし第二次世界大戦直前に出版をキャンセルされ、正式な発表は戦後の1946年となった。すなわち出版順にみれば、1944年に発表された『最後の休暇の最後の日』が最初となる。
 ホールデンの設定は作品ごとに少々異なっている。大戦前の『マディソン街はずれの小さな反抗』(1941年執筆、1946年出版)では、高校生の少年で、主人公である。大戦中の『最後の休暇の最後の日』(1944年)『マヨネーズ抜きのサンドイッチ』(1945年)では、軍隊に入隊した二十歳である。しかし本人は直接は登場せず主人公は別におり、兄ヴィンセント・コールフィールドの口から戦地で行方不明になっていると語られる。戦後の『気ちがいのぼく』(1945年)『ライ麦畑でつかまえて』(1951年)は十六歳の高校生で、主人公である。
 独特の言い回しと少年らしい潔癖さやデリケートな感性、また弱者に対する優しさなど、発表から半世紀経った現在も色褪せることなく読み継がれる主人公のひとりである。

コールフィールド家の家族構成
 『ライ麦畑でつかまえて』
  父(弁護士)
  母
  兄 D.B.(小説家)
  ホールデン(高校を退学)
  弟 アリー(病死)
  妹 フィービー
 『最後の休暇の最後の日』
  父
  母(女優)
  兄 ヴィンセント(兵隊、小説家)
  ホールデン(戦地で行方不明)
  弟 ケネス(病死)
  妹 フィービー

2016年5月27日金曜日

写実主義・自然主義とは何か

写実主義、あるいは現実主義は、現実を空想によらず、ありのままに捉えようとする美術上、文学上の主張のこと。
自然主義文学は、19世紀末にフランスで提唱された文学理論に基づく作品、およびそこから影響を受けた日本の20世紀前半の文学のこと。
エミール・ゾラにより定義された学説の下、19世紀末、フランスを中心に起こった文学運動。自然の事実を観察し、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する。チャールズ・ダーウィンの進化論やクロード・ベルナール著『実験医学序説』の影響を受け、実験的展開を持つ小説のなかに、自然とその法則の作用、遺伝と社会環境の因果律の影響下にある人間を描き見出そうとする。

19世紀末のフランス(エミール・ゾラの『ナナ』『居酒屋』など)を中心にして起こったものである。ゾラは、人間の行動を、遺伝、環境から科学的、客観的に把握しようとした。

ロマン主義とは何か

ルネサンスは古典主義というべきだが人間中心主義だったのでユマニズムと言われる
それに対抗してバロックがでてくるが、やはり、これに対抗してロココや新古典主義がでてくる

ロマン主義は教条主義、(新)古典主義の対概念としてとらえられるもので、アメリカの哲学者・アーサー・ラブジョイは「ロマン主義の時代」を1780年から1830年としている。また、ロマン主義は産業革命の大きな原動力となった。その萌芽は既にベルナルダン・ド・サン=ピエールやディドロに見られ、セナンクール、スタール夫人、バンジャマン・コンスタン、フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアンといった初期ロマン派作家によってそれまで教条主義によって抑圧されてきた個人の根本的独自性を根本とした表現が特徴とされる。これらはナポレオン1世の第一帝政に対する文化的抵抗運動の中で文芸サロンやサークルの中で醸成された。また、フランスのジャン=ジャック・ルソーの著作がドイツに伝えられたことで始まったドイツのロマン主義は、さらに再びフランスに逆輸入される形でその花を開いた。フランスのロマン主義運動はオノレ・ド・バルザック死後の1850年代以降勢いを失い、シャルル・クロス等の小ロマン派を除いては[5]その座を写実主義、自然主義、高踏派等に譲ることになるが、その影響はヨーロッパ全域に広まり、世紀末から20世紀の初頭の後期ロマン主義にまで及んだ。ロマン主義を信奉する傾向や集団を指してロマン派 とも呼ばれる。
ロマン主義の底流に流れているものは、古典主義や教条主義がしばしば無視した個人の根本的独自性の重視、自我の欲求による実存的不安といった特性である。ロマン主義においては、それまで古典主義において軽視されてきたエキゾチスム・オリエンタリズム・神秘主義・夢などといった題材が好まれた。またそれまで教条主義によって抑圧されてきた個人の感情、憂鬱・不安・動揺・苦悩・個人的な愛情などを大きく扱った。また、古典主義はその技法上の制約によって芸術的自由を抑圧したと非難する主張から、及び古典主義の欠陥に対する反発からロマン主義の一部は出発したとされる。
この特性及び主張は道徳やキリスト教的倫理から文学を解放し、やがて写実主義・自然主義へと継承された。 そして、19世紀末からモダニズムを準備された。20世紀は、その行き詰まりからマジック・リアリズムなどが誕生。

2016年5月20日金曜日

ルーゴン・マッカール叢書

巻数題名あらまし装置
1『ルーゴン家の運命』ルーゴンとマッカールの家系のはじまり。
ナポレオン三世のクーデターによるプッサンの動乱。少年シュヴェールと少女ミエットの愛し方さえ知らない幼い二人の悲劇。少女は流れ弾で死に、少年は憲兵に墓場でこめかみを打たれて死ぬ。
装置:プッサンという街。墓場(死者を飲み込む場)。

2『獲物の分け前』オスマン男爵のパリ大改造の下、地上げによって巨万の富を稼ぐアリスティッド・サッカール。若き後妻ルネは夫の連れ子マキシムと温室で不倫にふける。アリスディッドはルネから金を巻き上げて破産を免れ、ルネは若くして死ぬ。
装置:温室(人工楽園)。パリ(人工都市)

3『パリの胃袋』流刑地から逃げ帰ったフロランはパリの中央市場で働くが、そこの人々の讒言によってふたたび島が流しとなる。
装置:パリのレ・アールの中央市場

4『プッサンの征服』フォージャ神父はマルト・ルーゴンの家に住みこみ、いつしかその家ばかりかプッサン市をも支配するにいたる。しかし狂人となったマルトの夫の放火によって家もろとも焼け落ちる。
装置:王党派と共和派の両方がみおろせるマントの家。

5『ムーレ神父のあやまち』マント・ルーゴンの息子で司祭になったムーレはパラデゥ館の秘密の庭に住むアプビーヌと、アダムとイブのように愛し合う。しかし、彼が庭から去ったため、娘は死に、その葬儀を司祭である彼が司ることになる。
装置:秘密の花園。

6『ウジェーヌ=ルーゴン閣下』ウジェーヌ・ルーゴンは第3帝政で失墜の危機の乗り切り副皇帝にまでなる。
装置:政治

7『居酒屋』 ジェルヴェーズ・マッカールはランチエに捨てられた後、トタン職人クーバーの結婚し、洗濯屋を開業するが、舞い戻ったランチエとクーボーの二人と関係し、アル中となって貧窮死する。
装置:蒸留酒製造装置・居酒屋・洗濯屋。

8『愛の1ページ』エレーム・ムーレは娘ジャンヌを救ってくれた医師と不倫し、娘はそれに嫉妬して病死する。別の男と再婚した彼女は娘の墓を訪れ去る。
装置:バルザック邸のあったパッシーの高台から見えるパリ

9『ナナ』ジェルヴェーズの娘ナナは高級娼婦となって多くの男を破滅させるが、最後は天然痘となって死ぬ。
装置:ナナの肉体。

10『ごった煮』プッサンから出てきたオクターヴ・ムーレはアパートの女たちを意のままにあやつる。オスマン様式の表面はきれいなアパートは裏では汚物にまみれ、主人たちと女中との不倫と嬰児殺しが行われている。
装置:オスマン様式のアパート(欲望の館)

11『ボヌール・デ・ダム百貨店』 オクターヴの作った世界初のデパートは女たちの欲望をあおることで大繁盛するが、周りの商店は破産させていく。
装置:デパート(欲望の館)

12『生きる喜び』海辺の家にもらわれたポリーヌ・クニュは莫大な遺産を受け取るが、養い親子に財産をすり減らされる。しかも彼女の財産を散在した婚約者サザールを友人に譲ることになる。
装置:海によって浸食される岸辺の村。金をくすねられる遺産の入った引き出し。

13『ジャルミナール』炭坑に流れ着いたエチエンヌ・ランチエは最初の夜に会ったカトリーヌに強く惹かれる。彼女もランチエに惹かれているが、結局シャバルに暴力的に女にされてしまう。エチエンヌらが中心となって起こした炭坑ストライキは失敗する。炭坑事故で坑内に閉じこめられた二人はようやく愛し合うがカトリーヌは死に、エチエンヌは助かる。労働運動の芽生えを感じつつエチエンヌは炭坑を去る。
装置:炭坑

14『制作』ジェルヴェーズの長男クロードは印象派画家となって、嵐の夜に出会ったクリスティーヌに理想のモデルを見出し、結婚する。しかしパリを描いた大作は印象派風の絵から毒々しい象徴的なものへと変貌を遂げ、作品を完成できぬまま首をつって死ぬ。
装置:キャンバス

15『大地』兵隊くずれのジャン・マッカールは、農民となってまじめに働く。フーアン老夫妻の土地の生前分与が失敗し困窮する。土地の奪い合いの中でジャンは妻も土地もなくして、軍隊にもどる。
装置:土地(投資と生産の装置)

16『夢』シドニー・ルーゴンの私生児アンジェリックは刺繍細工人に拾われて見事な刺繍細工職人となる。いつか王子さまがと夢見る彼女の元にオートクール家の跡取りフェリシアンが現れ、身分を超えての結婚式で彼女は昇天する。
装置:夢を紡ぐ刺繍

17『獣人』駅助役のルボーは若妻セヴリーヌが養父の愛人であったことを知り、養父グランモランを列車内で殺害する。それをたまたま知ったジェルヴェーズの次男クロードはセヴリーヌと愛人関係になり、ルボー殺害を計画するが、狂った殺人衝動からセヴリーヌを殺してしまう。その後ペクーの妻とも不倫したジャックはペクーと走行中の機関車(ラ・リゾン)でもみ合いとなって二人とも転落死する。運転手のない機関車は兵士を乗せて闇夜を疾走していく。
装置:機関車・鉄道

18『金銭』 地上げの後、サッカールはユニバーサル銀行を設立して、株をつり上げ、空前のバブルを出現させる。しかし株価はついに暴落して、多くの破産者を生む。
装置:株式取引所

19『壊滅』兵士の戻ったジャンは、ブルジョワ階級のモーリスと戦友となる。フランス軍は大敗し捕虜となった二人は逃げ出して、モーリスの姉のアンリエットの元でジャンは療養する。その後、モーリスはパリコミューンに参加。また軍にもどったジャンは彼と知らず銃剣で刺し、モーリスは治療のかいもなく死ぬ。惹かれ合っていたアンリエットとジャンは別れる。ジャンはフランスの再生へと歩み出す。
装置:戦争

20『パスカル博士』パスカル・ルーゴン医師は年金生活をしながら、ルーゴンとマッカールの家系の遺伝を研究し、『ルーゴンマッカール叢書』の内容と同じ文書を残す。年の差をこえて結ばれ自分の子を宿した姪のクロチルドに文書を託して死ぬ。しかし一家の汚名をおそれた母フェリシテは文書をすべて焼いてしまう。唯一残った家系図を見ながら、クロチルドは生まれた息子シャルルに授乳するのだった。
装置:家系樹。遺伝要因が交錯・発現 

2016年5月11日水曜日

ディケンズとトウェイン

ディケンズ 1812年2月7日 - 1870年6月9日 58歳で死亡

 ボズのスケッチ集(Sketches by Boz、1836年)
 ピクウィック・クラブ(The Pickwick Papers、1836 - 37年)
 オリヴァー・トゥイスト(Oliver Twist、1837 - 39年)
 ニコラス・ニクルビー(Nicholas Nickleby、1838 - 39年)
 骨董屋(The Old Curiosity Shop、1840 - 41年)
 バーナビー・ラッジ(Barnaby Rudge、1841年)
 マーティン・チャズルウィット(Martin Chuzzlewit、1843 - 44年)
 クリスマス・キャロル(A Christmas Carol、1843年)
ドンビー父子(Dombey and Son、1846 - 48年)
 デイヴィッド・コパフィールド(David Copperfield、1849 - 50年)
 荒涼館(Bleak House、1852 - 53年)このあたりからダーク(40歳頃)
 ハード・タイムズ(Hard Times、1854年)
 リトル・ドリット(Little Dorrit、1855 - 57年)
 二都物語(A Tale of Two Cities、1859年)
 大いなる遺産(Great Expectations、1860 - 61年)
 互いの友(Our Mutual Friend、1864 - 65年)
 エドウィン・ドルードの謎(The Mystery of Edwin Drood、1870年)

トウェイン 1835年11月30日 - 1910年4月21日 75歳で死亡

 『金ぴか時代』(チャールズ・ウォーナーとの共著), 1873年
 『トム・ソーヤーの冒険』"The Adventures of Tom Sawyer", 1876年
 『王子と乞食』"The Prince and the Pauper", 1881年
 『ハックルベリー・フィンの冒険』"Adventures of Huckleberry Finn", 1885年 このあたりからダーク(50歳)
 『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』"A Connecticut Yankee in King Arthur's Court", 1889年
 『ノータリン・ウィルソンの悲劇』"The tragedy of Pudd'nhead Wilson", 1894年
 『ジャンヌ・ダルクについての個人的回想』"Personal Recollections of Joan of Arc", 1895年
 ジャンヌ・ダルクの幼馴染にして、小姓兼秘書として仲間とともにフランス軍に従軍した男ルイス・コントが、
 シャルル7世によるやり直し裁判において、生き証人として彼女の思い出を語る形式で、
 「パラディン」と皮肉をこめて呼ばれていた臆病者が、ジャンヌに感化され勇敢に戦死する
 エピソードなど、ユーモアを交えながら悲劇的な結末を描く。
 『トム・ソーヤーの探偵』"Tom Sawyer, Detective", 1896年
 『ハドリバーグを堕落させた男』"The Man That Corrupted Hadleyburg", 1900年
 『アダムとイヴの日記』"Extracts from Adam's Diary", 1904年
 『不思議な少年』"The Mysterious Stranger", 1916年

英米の国民作家と呼ばれる二人が人生の後半にダークに転じていることは興味深い
バルザックとドストエフスキーは最初からダークサイドを持っていたのも興味深い
ドイツの場合、ゲーテが国民作家と言えるだろうが、ダークサイドを
抑え込んでいるような気もする

2016年4月26日火曜日

スノープス三部作・納屋は燃える

(『村』(1983・冨山房)『町』(1969・冨山房)『館』(1967・冨山房))
『村』はフォークナーの長編小説。1940年に発表、後の『町』(1957)、『館(やかた)』(1959)と
ともに、いわゆるスノープス三部作をなす。『村』では20世紀初期、ミシシッピ州
ヨクナパトーファ郡ジェファソン町の外れのフレンチマンズ・ベンドという貧しい村に、
アブ・スノープスという、プア・ホワイト(貧乏白人)の一族が現れ、長男のフレムが村の
有力者バーナーの店の店員になり、やがて野性的な若者の私生児をはらんだ
店主の娘ユーラと結婚して、しだいに権力を得てゆく経過が語られる。
同じスノープス一族で牝牛(めうし)を愛する白痴アイクや、貧ゆえの憎しみから隣人を殺すミンク、
さらには荒馬の競売や埋め金探しなどの挿話が、一種のブラック・ユーモアを交えて語られ、
最後にはフレムがさらに成功を求めてジェファソンの町へ向かう後ろ姿が描かれる。
『町』では、フレムが町の銀行の副頭取になり、かつ妻ユーラの情人である頭取のド・スペインを
追い落として、ついに頭取にのし上がって、その館に移り住む。
『館』では、最高の地位を極めたフレムを、『村』に登場したミンクが、自分を助けにきてくれなかった
恨みのゆえに、40年近くの刑務所生活ののちに、ついに射殺して復讐(ふくしゅう)を遂げる。
あとの二作品には、ユーラおよび彼女の娘リンダと、スノープスの跳梁から人々を守ろうとする
地方検事ギャビン・スティーブンズとのプラトニックな愛が描かれて、
ミンクの復讐とともに、フレムの代表する出世主義の批判をなし、また全編に、
冷徹な眼をもったミシン販売人ラトリフが登場して、陰に陽にその批判を裏づける役目を果たしている。フォークナー後期の集大成的な作品群である。[大橋健三郎]

(納屋は燃える)
舞台は、19世紀末の米国南部。 幼い少年サーティ・スノープスの父であるアブナーは、
地主の納屋に火を放って焼き払ったとして、町から去ることを強いられる。
話の冒頭の裁判の場面で、サーティは尋問に呼ばれるが、アブナーが犯人だとする
明白な証拠が出てこないまま、スノープス一家は郡外へ退去することを命じられる。
一家は、ド・スペイン少佐の分益小作人としてアブナーが働くことになる新しい場所へと
移動するが、アブナーは、自分の目に自分の名誉を守るために必要だと映ることには、
権威に反抗せずにはいられない。新たしい場所にたどり着いた直後、アブナーはド・スペイン
少佐の屋敷を訪れるが、金色の絨毯に馬糞まみれの足跡を付ける。ド・スペイン少佐は
絨毯を洗うようアブナーに命じるが、アブナーは、きついアルカリ性の石けんを使って、
絨毯を修復できないほど傷めた上で、ド・スペイン少佐の家の正面ポーチに放り出す。
ド・スペイン少佐は絨毯の価値に見合う罰として、アブナーに20ブッシェルのトウモロコシの
供出を課す。裁判では、治安判事が罰金の額を減じて10ブッシェルにした。再び機嫌を悪くした
アブナーは、今度はド・スペイン少佐の納屋に火を放つ準備をする。サーティはド・スペイン
少佐に、父親が納屋を燃やそうとしていることを告げた上で、父親の元へ逃げ帰る。
少年は馬で追いかけてきたド・スペイン少佐にすぐに追いつかれるが、溝に飛び込んで
身を潜め、やり過ごす。サーティは2発の銃声を聞き、父親が撃たれたものと思い込むが、
誰が撃たれたかは作中では語られない。
なお、この父親と、サーティーの兄は、「納屋を焼く」以降の作品にも登場する。
父親から深い影響を受けた少年は、家族の許には帰らず、自分の人生をひとりで生きて行く。
文中には、事の20年後になって、長じたサーティが当時を振り返る言葉が盛り込まれているが、
それまでにサーティがどのように生きたかは語られない。 
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBd0290508.pdf

2016年4月25日月曜日

サートリス・バーベナの匂い

第1次大戦から帰ってきた、自暴自棄気味の青年が主人公の話。後のフォークナー小説に登場
する人物も何人か現れる。銀行経営の老ベイヤードは御者の黒人サイモンから、孫の
ベイヤードが第一次大戦から帰ってきたと告げられる。父はジョン・サートリス大佐である。
ベイヤードが帰ってきて、老ベイヤード(『バーベナの匂い』の主人公)と叔母の
ジェニイが迎えた。ベイヤードの双子の弟ジョニーはドイツの戦闘機に撃墜されて死んだ。
サートリス家に仕える黒人一家はサイモン、その子キャスビイ、その孫アイサムだ。
キャスビイは大戦に行ったうぬぼれから白人にたいして横柄になるが、すぐ老ベイヤードに
はりたおされる。ベイヤードは自動車を買って叔母ジェニイとアイサムを乗せた。
二人は車のとりこになった。老ベイヤードは、車を嫌い、車に乗る人間には金を貸さなかった
から、この事態に怒る。サートリス家は寿命で死ぬことがなかった。曰く、彼らは戦争を口実に
して自殺するのだ。――サートリス家の人びとが、彼の若いころの紳士であるならあざけり
とばしたであろうもの、今ではどんな貧乏人でも所有し、どんな馬鹿者でも乗りまわすことの
きる機械に乗って、出たり入ったりしているのを見つめていた。ベイヤードはスピード狂である。
町に出て、種馬に乗ろうという無謀なふるまいをして、落馬する。怪我をした直後に酒を飲んで
車で暴走する。
 第一次大戦と、弟ジョンの死は彼に生きることを面倒にさせた。「兵士の故郷」と似た雰囲気が
ある。ヨーロッパからかえってきた明るい好青年ホレス・ベンボウと、彼を溺愛する妹ナーシサ、
それに隣近所の養母に近いサリィ叔母。貧農の大家族スノープス家。
「しかし彼女は一九〇一年以後のことに対しては、それがどのようなことであれ、
おだやかなうちにもきっぱりと自分の心を閉ざしていた。そして完全に過去のなかに生きていた。
彼女にとっては、時は馬にひかれて去っていったのであり、そのあとに残されたかたくななまでに
静かな空白のなかには、自動車の、きしるような制動器の音などは、まったく入ってこなかった」。
ベイヤードは一人で事故をおこして、療養するはめになる。だが、まだ死ななかった。
人間への憎悪を糧に生きるらばの話。ナーシサは結婚した兄に絶望して、ベイヤードとともに
行動するようになる。車をとばしていたベイヤードは山を滑落してしまう。彼は平気だったが、
同乗していた老ベイヤードは死んだ。
彼はポニーで遁走する。――オマエハ自分デ考エテミテモウマクイクハズハナイ、イヤ、
不可能ダトワカッテイタヨウナコトヲワザトヤッテ、ソレデイテ、自分ノヤッテシマッタコトノ
結果ニ顔ヲツキ合ワセルノヲ恐レテイルンダ……
 ベイヤードのみならずサートリス家には死相が出ている。
老ベイヤードの友人ヘンリイらは、皆ヤンキーのことをいまだに根に持っている。
彼らは負けた国なのだ。「レフのはなしでは、おとっつぁんとストンウォール・ジャックソンは、
けっして降服しなかったんだそうです」。連邦政府の、ヤンキーの軍に加わってヨーロッパ戦線に
行くなどけしからんと老マッカラムは言った。ベイヤードはマッカラムの家に逃げ出していたが、
祖父を死なせたことはじきにばれるだろう。彼はクリスマスに汽車で帰る。クリスマスにはみな
祝い、爆竹をならす。
 メキシコからカリフォルニアへと放浪したベイヤードは、デイトン飛行場での試験飛行の
パイロットを引き受け、その飛行機、「紙の上でだけよくとぶ殺人機」は空中分解した。
「あれは行く用もないところに行って、自分にかかわりのないことをやったのですよ」。
ナーシサとベイヤードの赤子だけが残される。

付帯資料

 新潮の短編集でもっともかぐわしい作品は「バーベナの匂い」(1870年代の設定)。
ジェファソンの有力者サートリス大佐(曽祖父)の死を、息子ベイアード(20代、『サートリス』
のオールド・ベイアード)の視点で描いた好編だ。父の妻で、ベイアードにとっては継母にあたる
ドルーシラの髪を飾っていたのが、バーベナの花である。
彼女は、南北戦争が終わってもなお戦場に生きているような女性で「バーベナこそは、
千軍万馬のうちにあってもその匂(にお)いを失わない唯一の植物」と信じていた。
 ドルーシアが8歳年下のベイアード(多分オールド・ベイアード)に求愛のキスを迫る場面が
ある。「彼女が私にたいして異常な視線を投げかけ、彼女の髪にさしたバーベナの匂いが
百倍もまし、百倍もつよくなって、あたりのうす暗がりのなかに瀰漫し、なにか、いままで
夢みたこともないようなことが起りかけているのに気づいた」。濃厚な匂いだ。
長いキスのあと、「彼女はバーベナの小枝を髪からぬいて、それを私の折り襟にさしこんで
くれた」。
 父は、政敵に撃たれて死んだ。その死体の手は、不細工にだらりとなって「人を殺すような
大それた行為を、いままでいくたびとなく重ねてきたとはとうてい思われないほどだった」。
ベイナードは、復讐せよとの期待を一身に背負って政敵のもとへ向かう。襟もとには、
このときもバーベナ。匂いが「もうもうたる葉巻タバコの煙のように立ちこめる」。
それを嗅覚で感じながら、彼はどんな選択をするのか――。

「エミリーにバラを」(1931年)も、ジェファソンの話だ。主人公は、74歳で死んだ
ミス・エミリー・グリアソン。有力者の娘だったようで、父の死後、当時の市長――なんと、
これがサートリス大佐――から税免除の特別待遇を受けた。市長が代わっても
「ジェファソンの町では、わたくしに税金を課さないことになっております」と言って憚らない。
その邸宅の描写は、古のチャールストンを思いださせる。
 「かつては白く塗られていた、大きな、四角ばった、木骨造りの屋敷であって1870年代
特有の、ひどく優雅な様式にのっとって、いくつかの小さな円屋根や、尖塔や、渦巻模様を
施したバルコニーなどで飾られていた」

 エミリーは生涯独身だったが、30代のころに浮いた話があった。相手は、歩道舗装工事の
現場監督として町へやって来た北部男。彼女と四輪馬車でドライブする姿が見かけられたもの
だが、あるときからぷっつり姿を消した。そして、家から異臭が漂うようになる。
今で言うごみ屋敷か。近所から市に苦情が寄せられるが、市長は「きっとあの婦人が使って
いる黒人が庭で殺したヘビかネズミのせいでしょうよ」と、まともに受けあわない……

 この作品で、それなりの役回りを演じる黒人と言えば、長くエミリーに仕えてきた「召使」の
老人くらいだ。ただ、彼の固有名詞は文中にない。それでいて主の秘密を知り抜いている
らしいという皮肉。彼女が亡くなり、弔問客を迎え入れたあと、「まっすぐ家のなかを通り
ぬけると、裏口から出ていったきり、二度とふたたび姿を見せなかった」。
ここにも、南部社会の歪みがある。

http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/bitstream/2297/5223/1/KJ00000706358.pdf